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心斎橋駅近くの居酒屋に着くと、もう宴会は始まっていた。シラフだと、相手が面倒なのはわかっている。早く追いつかないと。
「遅い」
「すみません」
「部長、福ちゃん到着です」
「遅いぞ」
「すみません」
「何してたんだよ」
「文具店巡りを」
「嘘だね」
「嘘じゃないです」
「部長、福岡なんか隠してます」
「何も隠してないです」
「福ちゃん」
「何ですか」
「待ってたで」
「部長そうじゃなくて。ダメだ。後で聞かせろよ」
「何もないですって」
井出の勘は鋭い。酒の席だ。このまま適当に交わしてやろうと思っていた。みんなが出来上がってる中、福岡はなかなか酔うことができない。そう。酔い潰れて、明日二日酔いになるわけにはいかないのだ。しかし約束通り井出が絡んできた。
「女だろ」
「違います。なぜ否定する」
「井出さんはどうなんですか?」
「俺はどうでもいいんじゃ」
「まだ彼女できないんですか?」
「そうなんだよ。もう42だぜ」
「やばいですね」
「そう。もう崖っぷちよ」
「気の毒です。さっ、飲んで忘れましょ。辛い現実を」
「優しいな」
「仲間じゃないですか」
「っておい。ちがーう。福ちゃんの女できた疑惑よ」
「だから違いますって。今日の動きは今までにない怪しさだぞ」
「確かに、こんなことしたことなかったですよ。ただ純粋に気になるとこがあって。ほら、これ買ったんですよ」
「何これ。クレヨンじゃん。しかも何これ。青だけって。これが気になったの」
「この店が気になって、リサーチしてたんです」
「なんだよ。仕事かよ」
「仕事中でしょうが」
「東京いた時は、営業すぐ済ませてパチンコ行ったりしたじゃんか」
「あれは井出さんがついてこいって言うから。先輩の言うこと断れないでしょうが」
「こういう時だけ、先輩っていって責任転嫁する。だいたい敬ってないくせに」
「はい。僕、井出さんのイメージは、配属初日から変わってませんから」
「あれは、寸劇だろが」
「いや、あれはまんまの姿です」
「俺だって、福ちゃんの教育係になりたかったよ」
「嘘だね」
「かわいい弟と思って」
「ふーん」
「へんな女に引っかかって。誰だったっけ?あの広報の」
「その話はもういいですって」
「バカ。あんなメンヘラ女に引っかかるなんて、福ちゃんの今後が心配だったよ」
「ご迷惑をおかけしました」
「とんでもない女だったよな。あんだけ振り回しておいて、ケロッとすぐに別の男と結婚して、退社するんだもんな。旦那になった人も気の毒だよ」
「はあ」
「結城もかわいそうだったよな」
「そうですね」
「勝手に好きになられて、みんなに暴露されて」
「井出さんって同期でしたよね」
「そうそう。まぁ別に仲良くなかったもんな」
「そうなんですね」
「あいつさぁ。かっこよくて、鼻についてたんだよ。俺みたいな愚民と付き合わないみたいな態度」
「愚民。ぴったり」
「今、謙ったのだよ。福岡君。まぁ聞きたまえ。こちらはフレンドリーに近づいても、全く話に乗ってこず、なぜこんなに無理して話をしないといけないと思ったのだよ。だから、会話はなく。でも、結城がゲイだと知って、それを隠してたかったことを知った時に、なんだそういうことだったのかって、合点がいったね。それで、もっと話したかったなって思ったよ。あとの祭りだったけどな」
「……」
「今の時代だったらどうなってたかね」
「ですね」
「福ちゃんは、仲良くしてたみたいだから、会いてーんじゃないの」
「ですね。とりあえず、謝りたいです」
「謝る問題じゃないんじゃね。本人の問題よ」
「つっぱねますね」
「たぶんどこかでって覚悟はあったと思うよ。だから、引き継ぎも完璧に仕上げてたって」
「覚悟してたのか。結城さんの作成したのがマニュアル化しましたもんね」
「まっ、俺と違ってすごい奴だってのは変わりないけどな」
「そうですね」
「そんなことないですよ。って言ってよぉ」
「そんなことないですよ」
井出も多少なりとも結城のことは気にかけているのがわかった。今大阪にいると知ったら会いたいだろうか。




