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エバーシンス  作者: k-ta
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 「あれでええんか?」

「すみません」

「山下さんに謝っときいよ」

「はい」

「しかし、ほんまにええんかなぁ」

「ええんです」

「会社の後輩が訪ねてくるって、どんだけなん」

「たまたまでしょ」

「別に会ってやってもええやん」

「面倒でしょ。しかも10年前の会社の後輩って」

「もしかして、あれが好きやった人か」

「……」

「あの彼も必死やったから、純のことは嫌いやないんやろうな」

「その好きが恋愛対象かそうでないかで大きく違うでしょ」

「てかあんなんがタイプなんやな」

「10年前の話ですよ」

「10年前の話をいつまでも引きずってるってことは未練があるんよ」

「未練があれば会ってますよ」

「ほんといつまでもウジウジウジウジと」

「達とおんなじこと言わないで下さい」

「みんながみんないうわ」

と、山下が、一階店舗から二階の工場へと駆け上がってきた。

「社長、結城さん、あの人店の前にずっといますよ」

「え?」

二階窓からこっそりと表を見てみる。店の前に隠れもせず突っ立っている。窓から離れ、

「あいつは仕事中やないんかい」

「1時間くらいいますね。さっき、遥ちゃんに聞いてびっくりしましたよ」

「山下さん、さっきはごめんね」

「ほんまですよ。汗めっちゃかきましたもん」

「わたしも、昼ごはん奢りよね」

「昼ごはんじゃ足りませんよ。しかもわけわかんないこと聞いてくるし」

「あれ、焦ったな」

「はじめ、日本語やろか思いましたわ」

「ほんまよ。キョトンやったな。でもうまく乗り切ったな」

「すっごい納得顔で帰って行きましたもんね」

「納得したらこうなりませんよね」

「私らはやるべきことはやったよな」

「ありがとうございます」

「じきに諦めるでしょう」

 しかし予想に反して、夕方になっても店前にいる。バイトの北原遥は専門学校に行く為に4時に上がって帰っていった。今日は社長である香山瑞穂が店番についた。福岡がレジからかすかに見えて、非常にやりにくい。でも口出しをする立場ではない。ん?立場じゃないのか、店先にずっといられたら営業妨害だ。いや、こんな福の神のようなフォルムと優しい顔が営業妨害か。むしろ、客寄せではないのか。現にお客がいつもより多いのだ。結城のことはほとんど知っている。会ったのは8年前、共通の友人である達による紹介だった。達とは20年来の友人で、ある日達が結城を連れてきた。もともと輸入雑貨をしていて、結城の企画製作の技術をみて、新しく会社を興しそれ以来の付き合いだ。店舗販売だけでなく、ネットでもオリジナル商品を販売していて、会社の経営はなんとか成り立っている。結城がゲイであることも知っている。香山自身は結婚して旦那もいるし、17歳の娘と14歳の息子がいる。面倒見のいい姉御気質で、結城のことも手のかかる弟のように扱っている。そう、弟なのだから、口出しして何が悪いという考えが大きくなっていく。

 店に客がいないのを見計らって、表に出て、福岡の元に近づいた。福岡もそれには当然気付く。すぐに顔を背けた。

「よかったらどうぞ」

両手に持ったマグカップの片方を福岡に渡した。

「すみません」

香山は横に並んでしゃがみ込んだ。それを見て福岡もしゃがんだ。

「やっぱ、ばれちゃいましたか」

「はい」

「まさかあんなマニアックな質問をしてくるとは、思わへんかったわ」

「あのクレヨンを作る人は12色を厳選するのに、そうとう悩んだと思うんです。それはただ単純に聞いてみたかったことです」

「たしかに、作った人ならちゃんと理由づけできるな。そして、製作者をわざわざ嘘をついて隠す理由なんて、結城がいることを決定づけるようなもんやな」

「結城さんは、会いたくないんですね」

「そう言うてる。でも、今じゃ感謝してるやないかな」

「感謝?」

「そう。うちの職場じゃカミングアウトしてるし、自分の作りたいもの作れるようになったし」

「じゃあなんで会ってくれないんですかね」

「ウジウジウダウダしてんねん」

福岡は笑った。

「それは変わってないんですね」

「やっぱ昔から」

「はい」

「あの性格は一生変わらへんな」

「そして頑固で偏屈も変わってないみたいですね」

「な。まっ私にできるのは、こうやって話ことしかできへん。あとは純が覚悟を決めるか、あんたが無理矢理こんな形で会おうとするか、諦めるか、我慢比べやな」

「会ってくれるまで待ちます」

「そっか、でも仕事ええの?」

「はい。こっちが大事です」

「こっちが大事か」

そう言って、店に戻っていった。

「あっ、飲んだら、後でもってきて」

「はい」

 こんなやりとりをしているとは知らず、結城は外が気になりながらも、仕事を続けている。動揺は隠せない。もう会えるとは思っていなかった。会いたいとも思ってくれないと思っていた。その福岡は10年ぶりに見たが全く変わっていない。10年というとても長い年月なのに、一瞬であの日々が蘇った。小さな小さな希望として、自分の作ったこのクレヨンがもしかしたら、福岡の目に入り、もしかしたら気づいてくれるかもしれないと思っていた。本当に小さな小さな希望だった。まず目にすることがあるだろうか。それから、自分が作ったと気づいてくれるだろうか。それが、今本当に実現したことに信じられないという気持ち、本当なのか夢現な状態にいる。会いたい。やっぱり会いたい。でも怖い。この進まない、いつまでもウジウジクヨクヨの自分を打破できないのがイライラしている。でもこれが今の自分だ、40も過ぎたのに、いつまでこんななのか情けなくなる。

 6時間近く、同じ場にいる自分にも感心してしまう。店の中にいるのに、そしてこうして待っているのはわかっているのに、会ってくれないのは、答えなのか。店に乗り込んで無理矢理会えばいいのか。ただ無理矢理行く権利はない。自分が会社を辞めさせてしまった原因でもある。ジンと言う男が結城の家の近くの駅で話していた時に、無理矢理会話に入っていかなければ、結城がゲイだと知ることもなく、ジンも自分を結城の彼氏と勘違いせずに済んだのにと、ずっと後悔している。無理矢理、猪突猛進が人の人生を狂わせてしまった。なかなか性格は変えられないが、以前よりもストップは効くようになったと思う。ジンはあの事件以来見なくなった。結城が辞めて、いつの間にか、いない日々にみんな慣れていく、2ヶ月もすれば、いないことに違和感はなくなった。でも福岡は一度も考えない日はなかった。後悔の念だけではない。何をするにも、結城はどう楽しむだろうか。何を見ても結城ならどう思うだろうか。今頃何してるだろうか。ちゃんと生きていけてるだろうか。結城とだったらと考える日々は、はっきり言って異様だった。

 着信があり見てみると、井出からだった。

「あっ、もしもし、はい。あのそれが、」

と、営業部で飲みに行くことをすっかり忘れていたことに気づいた。すると、店から香山が出てきてこちらに来ているのがわかった。

「井出さん、すみません。すぐかけ直しますので、一旦きります。すみません」

電話きると。

「ごめんな結城帰ってもうてたわ」

「いつですか?」

「たぶん10分くらい前に」

「でも」

「裏があんねん。たぶん天満の駅から帰ると思うねんけど」

「行ってみます」

福岡は天満の駅に急いで向かった。とりあえず天満に向かったものの見つかるはずもない。駅を一通り周り、諦めるしかなかった。明日から土日で仕事は休みの為、明日京都の実家に帰るつもりだったが、明日も店に行こうと決めた。とりあえず井出に連絡をし、詫びを入れて、遅れて飲み会に参加することにした。そして、実家に連絡もいれた。

「あっ、おかん。ごめん。明日仕事が入って帰られへんくなったわ。そう。ほんまごめん。ん?来月もたぶん来るからまた連絡するな。うん。うん。親父にもよろしく。はい。はーい」

電話を切った。実家にはしょっちゅう戻っていたので、割とあっさりしていた。考えてみれば、実家を離れて、大阪出張が始まるまでは、年に一回帰るくらいだったが、毎月帰るペースだった。ただ帰るごとに、彼女はできたのかと聞かれるのが鬱陶しく感じていた。やはり32にもなってくると、孫を意識しているようだ。妹も適齢期に入っているが、その兆しは今はないようだ。だからといって、彼女ができないのは、どうしようもない。こんな容姿でこんな性格にした親にも責任はある。ただ、彼女とか結婚とかこの年齢になっても、全く実感が湧かない。楽しみを見出せないでいる。


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