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エバーシンス  作者: k-ta
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 少し二日酔いがある中、朝早く起き、朝ごはんを食べて、大阪支社に出社し、営業部長や営業部に挨拶をかわし、近況報告をお互いにしたところで雑談になっていた。本来は朝一番に行く予定ではなく、昼すぎに出社して、支社で作業をしてから、みんなで飲みに行くという流れではあった。他の者は続々と営業に出てしまい、営業で残っているのは、部長と2人だった。作業を早急に済ませようと思っていたが他の部署にも顔を出しておくことにした。しょっちゅう顔を合わせているため、別に歓迎ムードではないが、それが今はありがたい。早々と営業部に戻り、報告書を作った。

「福ちゃん、なんで今日は早い出社やったん?」

部長が暇だから話しかけてきた。

「ちょっと気になる店がありまして、リサーチに開店と同時に行きたいなと思いまして」

「へぇ、どこ」

「天満にあるなんてとこだったかなぁ」

「なんやその程度か」

「そうなんです。ちょっと見てみたいなって程度です」

「そなら、その店寄ってから、来ればよかったんちゃうん」

「迷ったんですよね」

「まっ、今日飲みに行けるんやろ?」

「はい」

「月一の楽しみやからな。井出も楽しみにしとったで」

「光栄でございます」

「谷垣さんは、元気にしとったんやろ?」

「はい。先代も相変わらずでした」

「そうか。なんか言うてくることなかったんか」

「はい」

「そうか」

部長の話に付き合いながらも、気持ちは焦っている。考えてみれば、開店前に、店先で待っていれば結城に会えたんではないかと思ったからだ。後悔しつつも、まだ開店前にたどり着くかもしれないと思って急いだ。

 天満駅近くにあるあすか文具店はこじんまりとした店で、ただ全体的に木の材質を利用した内装で、文具の色がカラフルに際立って見えるように配慮されているのがわかる。店先のディスプレイもゆとりをもって飾ってあり、その中に青のクレヨンもさりげなく飾ってあった。開店10分後にはなったが、大きく息を吸い、店内に入った。「いらっしゃいませ」と女性の声が聞こえたが姿は見えない。店内は一般の文具も置いてあり、もちろんコタニの製品もあった。ただ数は豊富ではなく、厳選されているようだ。ゆとりのある配置で、店のこだわりを感じられる。またペンはペン置き場、メモ帳はメモ帳置き場と決めておらず、色を意識して配置しているように感じる。ペンケースを見てみると、"他の色もあります。気軽にスタッフにお声掛け下さい"とかいてあり、別カラーのラインナップがペンケースを置いてある前の値札のカードと共にに色カードも小さく貼られていた。これでスペースを有効利用しているのがわかる。見たことない文具もあり、これが自社製作なのか、輸入物なのか、他社オリジナルをセレクトしているのかはわからない。どれがどこの会社のものかわからないようになっている。とにかく、見た目からお気に入りを探して貰おうと意図があるのがわかる。ただ見た目だけでなく、機能も重視しているのも、文具を取扱う仕事をしている身としてわかる。店内を見て回り、目的の物を探していると、店員とやっと会えた。会釈をされて、棚の整理を再びはじめる。その方が気が楽でいい。さらに少し進むと、白い箱に収められた青いクレヨンを見つけた。12色入り、1580円。これを高いととるか安いととるか。この色の絶妙な変化を出す為の努力とデザインを見る限り、1580円は安いくらいだ。コスパ最強と言いたいところだが、果たして需要はあるのか、疑問はある。文具マニアなら絶対に食いつくだろう。色のラインナップはどうやって決めたのだろう。色々聞きたい。というよりも早く会いたかった。あの日から10年と少し経って、それでも忘れた事のない人。白い箱を手に取り、レジに向かった。それに気づいて、女性スタッフもレジに駆け寄った。

「1580円になります」

財布から2000円をだした。

「420円のおつりとレシートです」

「あの、ちょっとお伺いしたいんですが」

「はい?」

「このクレヨンは、こちらで作られた物ですか?」

「はい。当店で作ったものになります」

「これを作ってる方にお会いすることはできますでしょうか?」

「少々お待ち頂いていいですか?」

と言って、店の奥へと消えていった。少しして戻ってくると、

「すみません。私、ここのバイトの者で今、ちょっと社員が席を外してまして」

「ごめんなさい。遥ちゃんどうかした?」

「社長よかった。この方が」

「お忙しいところ、すみません。このクレヨンを購入させて頂いたんですけど、」

「ありがとうございます」

「それで、このクレヨンがこちらで作られたと伺いまして、製作された方にお会いできないかと思いまして」

「製作者は私です」

と、40代後半くらいの細身の女性が答えた。落胆した。

「そうですか」

「レジで話すのもあれですから、よかったら奥へ」

「いえいえ、そこまでして」

「製作者の代表は私であって、うちの会社の全員で作ってますので、詳しくお話ししても構いませんよ」

と奥に通され、仕切り扉を開くと店舗と繋がった応接室のような場所に案内された。

「少し待って下さいね」

とさらに奥へと女性は行ってしまった。5分程待たされただろうか、女性は、お茶ともう1人の女性と共にやってきた。もう1人の女性は20代後半から自分と同じ30代前半くらいで小柄な女性だった。

「すみませんね。お待たせして。お茶よかったらどうぞ」

「ありがとうございます」

「製作者を訪ねてって考えた時に企画を考えた人ではないかなと思いましてね。発案者の山下です」

「山下さん。すみません。私、実は人探しをしてまして、このクレヨンを見た時に、その人が作った物だと思ってまして、すみません。違いました」

「人探しですか」

「はい。実はその人もいつかこんな商品を作りたいと言ってまして、もしかしたらと思っていたんです。なかなか考えつかないアイデアだなと思ってましたが、似た考えを持ってる人はいるんですね。その人もこの商品を見たらびっくりすると思います。10年前に考えてて、当時は全く理解されなかったみたいですし、実現してるのを喜ぶだろうなと思います」

「どういった間柄だった方ですか?」

「会社の先輩だった人です。色々お世話になったもので」

「そうですか。力になれなくて」

「いえいえ。突然こんな事言ったのに、こうやって時間を割いて頂いてすみませんでした」

「探してる方見つかるといいですね」

「ありがとうございます。そうだ、すみません。山下さん、12色を選んだ基準って何だったんですか?青系もほんとにたくさん種類がある中で、これらを選んだ基準って?」

「基準ですか?」

「はい」

「えっと、」

「群青と瑠璃って結構似てるじゃないですか。藍白とか新橋色とかこの中と違う色に見えるのは他にもたくさんあるのに、どうしてこの色が選抜されたのか」

「はい。あのですね」

「一応商品として出すので、ある程度名の知られているものにしようってなったんじゃなかったかしら」

「そうです。そうです」

「なるほど、そういう事情はわかります。じゃあ落選した色で入れたかったなって色はありますか?」

「えっと。いえ、この12色で満足してます」

「凄い、これがベストだって思ったんですね。すみません。ありがとうございました。私も大切にさせていただきます」

と、納得したように応接室を後にした。が納得しなかった。あの人は発案者ではないことがわかった。何かを隠している。何かも確信した。この店に結城がいると。どうしても会いたくないのだろう。嘘までつかせて。でも引き下がるわけにはいかない。結城が出てくるまで店の前で待つことにした。


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