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エバーシンス  作者: k-ta
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 雲井鼠の空ながらも気温は高く少し汗ばむ陽気の5月。福岡は、天神橋商店街を6丁目方面に向かって歩いていた。コタニに入社して、丸10年が経ち、営業の第一線でバリバリと働いている。営業成績も良く、1番の出世頭とも言われ、脂が乗っている。出張で大阪に来ているのは、福岡となら取り引きをしてもいいという相手で小さな町工場の塗料を専門に扱っている店で、コタニにとって、重要な取引先の為、福岡に任せている。大阪支社もあり、そこから人員を送ることもできるが、福岡を通しての取引との先方の希望もあり、福岡自らが、月に一度は顔を出すようにしている。なぜ福岡でないとダメなのか。それは4年前に遡るが、この町工場の先代がたまたま東京に出張で来ていた時に、スナックで意気投合し、飲み友達になったあとに、お互いの職種を知り、それがきっかけで取引を行うようになった。今の社長にも信頼され、実家のような感覚で顔を出すようになっていった。福岡の人徳と人柄、そして、趣味が大きく影響したおかげである。文房具のなかでも売上に大きく影響する、ボールペンのインクを取り扱い、他では開発してない特殊なインクで、他社にも目をつけられている。ただ今のところ福岡の力で安泰である。その工場が十三近くで、今回も挨拶まわりにきている。というより、遊びに帰っている。後輩や大阪支社の人間と一緒に行くこともあれば、1人で出向くこともあり、まちまちである。今回は誰ともスケジュールがあわず、1人で向かっている。いつもは大阪支社顔を出して挨拶するところだか、午前中東京で仕事を済ませて、夕方に大阪に着いた為、明日行くようにしている。10年も経てば自分のペースで仕事ができるようになり、それがまた仕事の充実度を大きくしている。

「ただいまぁ」

この時間になると、仕事を終えてしまってるのだろう、店先は静かで誰もいない。勝手に奥に入っていき、再び挨拶する。

「ただいま」

少しの沈黙後に50近くの女性が顔をだした。

「あぁ。おかえり」

「今日は1人?」

「はい」

「おじいちゃん、福ちゃん、帰ってきたよ」

さらに奥からバタバタと音がして、

「おぉおかえり」

と80代男性が笑顔で出迎えていた。この人が創業者で今は隠居生活をし、息子が後を継いでいる。

「慎さん、ただいま」

「福ちゃん、どうする?もうご飯にする?」

「はい。お腹すいたぁ」

「わかった。準備するからちょっと待ってや」

こんな風に家族の一員として扱ってくれていて、本来はいけないことだが、1人で出張する時はホテルではなく、ここに泊まらせてもらったりしている。慎さんこと、谷垣慎太郎とビールを飲みつつ、おかずを摘んで談笑していると、組合の寄り合いから、現社長である谷垣洋平が帰ってきた。

「社長、お邪魔してます」

「おぉ、来てたんか。母さん、俺もビール」

「自分でとりな」

ブスくれた顔をしながら、洗面所に消えた。谷垣家は、6人家族で、28歳の息子、25歳の娘、19歳の息子がいる。28歳の息子は家業には就かず、会社員として働いている。25歳の娘は社会人3年目で、雑貨を扱う店で働いている。19歳の息子は大学2年生で、文学部日本文学科に在籍している。福岡は3人ともよく話し、良き相談相手にもなっていて、基本的に家族で取り合いになっている形だが、やはり、上の2人とはなかなか時間が合わなくなっている。今日はまだ誰も帰ってきていない。4人でご飯を食べている中、長男が仕事を終え、次男がバイトを終え、帰ってきた。20時も回り、男3人は酒が回っていて、わけのわからないことを言い始めている為、長男は自室に戻り、彼女と電話をしている。次男は居間に一緒にいるが、スマホをいじっている。福岡が来ることに特別感はなくなり、完全に溶け込んでいるのがわかる。次の日は大阪支社に行かないといけない為、考えながら飲まないといけないのに、もうすでに手遅れになっている。慎太郎は老体なので、すでに寝てしまっている。布団で寝せようと、洋平の妻である由美子は、必死に叩き起こし、何とか寝室に運び込むことができた。手伝わない男衆にご立腹だった。そして、さらに洋平も眠気に勝てなくなり、その場にうっつぷしているが、こちらは由美子も放っている。やっと自分のターンと言わんばかりに、次男晴人が福岡の元に近寄る。

「福ちゃん、福ちゃん、これ見て」

「何これ」

「こないだ、京都の大原に行った時に見つけた看板なんやけど、フォントやばない」

「初めて見たかも」

「やばいやろ。これ見つけて、福ちゃんにすぐ送ろうと思ってんけど、今日までとっといた。後で送るわ」

「Twitterであげなかったんだ」

「まず福ちゃんに見せてからや思おて」

「もう。お小遣いあげちゃう」

「あかんよ。そんな事であげたら」

「ええやんか」

「福ちゃん、酔ってるからって、簡単にお金あげたら、こいつが腐るで」

「はい。すみません」

「あんたも酔っ払い相手に、こんなことしたらあかんやろ」

「うっせーな。ブス」

「日本文学科が泣くわ」

「もう一個見せよ、思おてんねんけど、見したらん」

「どうせすぐTwitterにあげんねん。放っときぃ」

「あんな、福ちゃんと俺が喋ってんねん。入ってこんどいて」

「親父狩りの現場を見過ごせと」

「誰が親父やねん」

「福ちゃんの関西弁いらっとするからやめて」

「俺京都出身」

「関西捨てた男やろ」

「人聞きの悪い」

「さっ、明日も早いさっさと風呂入ろ」

「はよ。どっかいけや」

晴人との会話に割って入ったのが、長女の有彩だ。有彩は帰って早々荷物を居間に置いたまま、風呂場へと向かっていった。

「何も言わんと早よ入ればええのに」

「有彩はいっつもこんなに遅いの」

「時間はまちまちやけど、こんなんしょっちゅうや」

「時代に逆行してるな」

「要領が悪いんとちゃうか」

「あっ、言ってやろ」

「べつにええよ。怖ないわ。それよりさっきの話やけど」

「ん?」

「あかんよ。福ちゃん、晴に小遣いなんてやらんでええから」

「母ちゃんがなんで入ってくんの」

「そんなことで金なんてやらんでええの」

「わかりました」

「じゃあ福ちゃんには見せたらんからな」

「子どもみたいなこと言わんと」

「ほんとガキな」

「な」

「あー。後ちょっとやったのに」

「んで、有彩は。荷物ここに置きっぱなしにして」

とバックを持ち上げて、別の場所に移動させようとすると持ち方が悪く、中身が溢れ出てしまった。

「あー全部出てもうたわ」

「何してんねんな」

と、晴人は言うだけだが、福岡は転がったものを拾うのを手伝った。中身の一つに、変わった形状のクレヨンを見た。そして、色の名も納戸と書かれている。とても珍しい。納戸色を知るものがそんなに存在するとは思えないし、青系でも納戸の文具など見たことがない。よく見ると他にも何色か散らばっていた。急いで拾って見てみると、白群、鉄紺と、青系のクレパスばかりだ。落ちているなかに、クレヨンを入れているであろう白い箱があったので、拾って中を開けた。12色青系だけのクレパスが入った箱で、色の名もどれも聞き馴染みのない色だったが、福岡はよく知っていた。


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