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今日も仕事帰りに、結城の家に行くとやはりいないようだった。諦めて、エントランスをふと見た時に衝撃が走った。503の郵便受けが封鎖されていた。家の前で電話をかけてみる。すると、聞き覚えのある女性の声が流れてきた。電話を切り、呆然とした。結城はもうここにはいない。そして、電話やメールは届かない。福岡は深く落ち込んだ。あんなに心を許しあえていたのに、あれほど仲良くなれたのに、あっさりと何も連絡もないまま、切られてしまうような人間関係だったのだと。会社なんて関係なく、1人の人間として、これからも続いて行く関係だと思っていたのに。力なく自宅に戻った。エントランスの宅配ボックスを見ると、301の室番が赤く灯っていた。ボックスを開けてみると、みかん箱が入っていた。送り主を見ると結城からで、一気に高揚するのがわかった。荷物を持ち、急いで部屋の鍵を開け、テープを剥がし、こじ開けた。中には、結城の家に置き忘れていた服や日用品だった。下の方には、50枚くらい収納できるCDケースが入っていて、びっしりと結城の撮り溜めたDVDが入っていた。どれも見たいと言っていたDVDだ。
「1人で見たって意味ないよ。一緒に見ようって言ってたのに」
CDケースを取り出すと、下に茶封筒があった。中を確認すると、紙が入っている。
"DVD見たいと言っていたものです。福ちゃんにあげます。
電話、メール、たくさんくれてありがとう。こんな形なことを許してください。
福ちゃんとたった半年くらいの付き合いなのに、すぐに打ち解ける自分に驚きました。あんなに言い合いができる自分に驚きました。信じられないくらい距離感のとり方のおかしい後輩とできれば、ずっとこのままの関係を続けたいと思ってました。1月1日のあの日、福ちゃんが一緒の布団で寝てたことに動揺しました。知っての通り、自分はゲイです。このままだと、福ちゃんに何かしてしまうことに、自分自身が恐怖を覚えました。福ちゃんの方が、今考えると恐怖だっただろうね。とにかく、近づき過ぎてはいけないと決心し、家に二度と入れない覚悟をしました。とはいえ、そんなことしなくても、福ちゃんはいずれ近づいては来なくなってただろうね。
ただ、福ちゃんといた時間はとても貴重で忘れられない思い出になりました。ありがとう。
福ちゃんのその屈託のない明るさと人懐っこさ、前向きで何にでも意欲的に取り組む姿勢が好きでした。これからも頑張ってください。
では。"
嬉しい内容で、自分の罪の意識を軽くしてくれる手紙でありながら、もう会えない辛さが耐えがたく、何度読み返しても胸を締め付けられた。




