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パソコンをシャットダウンさせる。冷めてしまったコーヒーを口にし、背もたれに寄りかかり、脱力する。私にだけスポットライトが当たっている。大きく伸びをし、"よし"と立ち上がる。まだ残っているコーヒーを左手に、デスクの照明を切り、バックを持ちフロアを出た。廊下の微かな明かりで、フロアは暗闇に包まれることはない。オフィスは仕切りがほとんどなく、広いワンフロアを一望できる。給湯室にカップを持っていき、飲み残しを排水口に流し、カップをゴミ箱に投げ入れる。誰もいないことをいいことに、普段しない行動をとったが、あっ、防犯カメラに映ったかもと一瞬で焦りに変わったがもう遅い。まぁいっか。大して気にすることはなく、エレベーターホールに向かう。金曜日の夜に仕事で残業するなんて、何も予定のない悲しい女だなと思われるのが、嫌だったが、もう慣れてしまった。若いうちは毎週毎週予定があったかもしれないが、20代後半、30代前半、30代後半になるにつれて、寂しいほどに独身女性は予定がなくなっていく。恋人でもいれば、別だが。ということで恋人もいない。ただ全く予定がなくなっているわけでもなく、恋愛をしてないわけでもない。ただ毎週毎週金曜の夜に予定があるわけでないのだ。エレベーターを降りて、通用口に向かい。16階フロアが全員帰ったことを管理室に伝える。
通用口を出て、駅に向かう。少し前に、見たことのある後ろ姿があった。声をかけようかと思ったが、きっと会話が続かないであろう。見た目はいいのだが、本当に掴めない存在で社でも親しくしている人はいるのだろうかと思わせるくらい、近づくなオーラを放っている。ただ仕事は良くでき、仕事上となると、会話はできる。よくお笑い芸人さんで、プライベートでは、全く話さなかったり、内気だったりする人がいるらしいが、まさにそんな感じだ。プライベートを知りたいとは思うが、きっかけが全くないのだ。そう思っているうちに、自分がむかう道と別の方向に行ってしまった。東京駅方面に向かっているようだが。彼の住まい。そういえば知らない。いや、これから、何か予定があるのかもしれない。まっ知ったことではないけど。でも足は彼の後を追おうとしている。いけないことはわかっている。でもどんなプライベートを送ろうとしているのか、すごく興味があった。今私は探偵の気分だ。決してストーカーではない。