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2月27日月曜日。あの日以来、結城と連絡は取れないままだ。福岡は毎日電話、メールをし、家にも行くが、会うことも、連絡をとることもできていない。そんな中、一月末日で、結城が退職することがわかった。福岡はそれを聞いて、北の元へ向かった。ちょうど、井上も向かっているところで共に向かっていった。
「課長。結城が退職するって本当ですか?」
「ああ」
「連絡がとれたんですか?」
「直接会ってはない。ただ電話では話せたよ」
「何って言ってたんですか?」
「直接会社に出向かずに、こんな形を取ってすみません。迷惑をかけてすみません。と」
「課長はそんなことで納得したんですか?」
「納得はできなかったよ。ただ会社に来る勇気はないと」
「そんなの周りの人間は誰も気にしていませんよ。むしろ、もっと結城の存在が大きくなってます」
「結城が、電話出られず、メールの返信もできず、すみませんって言ってたよ。福岡君にも」
「すみませんじゃなくて、謝らなくていいですよ。あいつに会わせてください」
「彼がそれを望んでいない」
「そんな形で退職を許すなんて納得いきません。課長はそれで退職させるんですか?」
「こんな形の退職はまずないよ。ただ桐島専務の了解を得てからだ」
「桐島専務が?また何か関与してるんですか?」
「結城が桐島専務に直接、退職の了解を得てもらったようだ」
「どういうことですか?桐島専務が退職に加担したと?」
「加担ではなくて、彼の意思を尊重したようだ」
「話が見えません」
「だろうな。私の口から言うのは、結城にも、桐島専務にも失礼になる」
「じゃあ、桐島専務に直接聞きます」
「やめなさい」
「また桐島専務の力で、今度は結城が辞めさせられたんじゃないんですか?」
「結城はそれを全否定していたよ。自分が逆に専務に頼み込んだと」
「2人にはやっぱり何かあったんですね」
「憶測ではあるが、ジンという男が絡んでいるんだろうな。とにかく、我々には知る由もない。そして、聞くべき事ではないんじゃないか?また結城を傷つけてしまうかもしれない」
「結城さんに、会うことはできないんでしょうか」
「私にもどうしたらいいか」
「まだ引っ越したりしてないんですよね」
「どこにいるのか」
「くそっ。ゲイだと知られた事でなんだ。仕事の上では関係ないことだし、珍しい話じゃないと言ったらな」
「はい」
「今の世の中、ゲイも受け入れられつつあるのは知ってます。ただゲイであることを自分が認めてないと。自分が受け入れてないものを、周りが認めていくことがとても辛いんだと」
「……」
「バレてしまったことで、初めは数奇な目で見るだろうがいつかは慣れていく。彼はゲイとして、私たちは認識する。自身が認めてないのに、周りが認めるっことが嫌だったんだろうな。だから、知られた人間には会いたくないのかもしれない」
「それさえも関係なく、今まで通り付き合っていけるのに」
「いや、今まで通りは無理だろう。今は、私たちには何もできない。いつか、乗り越えることができたら、会えるようになるさ」
「それが明日なのか、10年後なのか」
結局、会う術がないまま、仕事に戻った。最後に会ったあの日からずいぶん経ってしまったような気がする。このまま会えないなんて本当に嫌で仕方がなかった。




