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前日にあんな事をしておいて、普通に出勤してくる神経を疑ってしまうが、来るなとは言っていない。自分はあくまでも被害者であるという主張を翻す気はないようである。広報室に入り、刺すような視線も気にせず席に着いたが、特にすることもない。みんなが敬遠しているのがわかる。水上がいるにもかかわらず、特に動こうともしない。その太々しい神経にはある意味頭が下がる。しびれを切らして、水上は上原を呼んだ。
「おはようございます」
「おはよう」
「……」
「昨日のことで何か言うことはない?」
「いえ。特に」
「そうじゃなくて、色んな人に迷惑をかけてしまったのよ」
「……」
「謝罪の言葉が先にあってもいいのではないかと思うけど」
「私は悪いことをしてません」
「会社の就業時間中に、色恋沙汰で騒ぎを起こして、悪くないとまだ言い張るの?」
「私は被害者です」
「被害者か」
水上は喉まで出そうな怒りを必死に飲み込んだ。
「では、それに関しては、今後どうしたいと思ってる?」
「どうって?」
「会社に対して要望があるとか、結城さんに対して訴えたいとか」
「いえ。何かして欲しいとは思ってません」
「じゃあこのことに関しては、解決したということにしていいの?」
「はい」
「わかりました。その上で、会社から何らかの処分があるかもしれません」
「どうしてですか?」
「会社としては不利益を被ったと判断するかもしれません」
「納得いきません」
「では会社相手に戦うことになるけど。今までの話だと、一般的に考えて、あなたが加害者になるわ」
「私が加害者?」
「そう。結城さんの話を聞かないといけないけど、そもそもあなたたちは交際していないどころか、知り合いになったばかりの段階なのよね。しかも、食事は何回?メールの内容はどんな感じだったの。お金を騙し取られた?気持ちをもて遊んでる行動はあった?聞いてた話だと、結城さんは、誠意のない行動をしていたとは思えません。だから詳しく話を聞いて、調査していかないといけないけど。あなたが加害者と判断された場合は、会社としてもそれなりの処分を下すことになります」
「……」
「それでも納得いかない時は、とりあえず、色んな人に相談してみて、アドバイスをうけるなり、弁護士さんに相談して見てください。それはあなたの自由です」
「……」
「その事に関して、私たちは証言したいことがあります。すみません、突然話に入ってきて」
広報室に入ってきたのは、千曲と梶村だった。
「何かしら。あなたたちは?」
「突然すみません。僕は財務経理部の千曲と言います。こちらは、商品開発部の梶村です。もし、上原さんが、この騒動でまだ動くというなら、私たちにも話をさせてください」
上原が睨んでいる。でも千曲は引き下がらない。
「今回彼女が被害者だというのなら、私たちは彼女の被害者です」
「関係ないでしょ」
「そうです。関係ありません。あなたが結城さんと関係ないように。すみません。話に割って入ってしまって。私たちは仕事に戻ります。失礼いたします」
そう言い残して、すぐに部屋を出て行った。
「まぁよく考えて、明日またどうするか聞かせてください。じゃあ戻って、仕事を続けてください」
「すみません。気分が悪いので、今日はこれから休みを頂けませんか」
「わかりました」
「ありがとうございます」
この場にいられるわけがない。上原はまた冷たい視線を浴びながら、広報室を去った。みんなはで寄ってたかって、嫌がらせをしてきて、どうしてこんな惨めな思いをさせられなければならないのか、そう思いながら、会社を出た。




