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「いませんね」
「居留守かなぁ」
「どうしますか?」
「ここにいてもしょうがない。今日は帰るか。」
「はい。僕電話し続けときます」
「ああ」
井上とともに駅に戻る。
「福ちゃんは、俺らと飲んだ日には、知ってたんだよな」
「はい」
「あの日の福ちゃんの結城に対する気持ちは本音だったんだな」
「はい」
「結城という人間を知ってるから、ゲイであってもそれがどうしたって思うけど、それでも本人にとっては大きな悩みだったんだな」
「そうですね」
「飲みに行った次の日さ、心配になって、結城と話したよ。したら、言えないって」
「言えない」
「ああ。絶対に打ち明けるつもりはなかったんだろうな」
「すごく落ち込んでました」
「あんな形でぶちまけるなんて、ほんとに許せないな。ジンって奴も、あの女も」
「あの時、井上さんが来てくれてよかったです。情けないです。何もできない。しかも人を見る目が無さすぎて」
「それを言ったら、俺にも結城にも、福ちゃんと仲良くしてる人たちに失礼になる。あの女がどうしようもなくクズだったんだよ」
「そっか。すみません」
「しかし、結城と話してーな」
井上の言葉を、心の中で大きく繰り返した。結城がゲイと知って以来、ずっと話したかったのに、連絡しなかった自分を悔やんでいる。その時に、ゲイと知っても、変わらずに仲良くしていたいと伝えていれば、この状況は変わっていただろうか。変わっていなくても、早く伝えればよかった。それだけで少しは心が救われてたかもしれない。驕り高ぶった考えかもしれないが、そう感じずにはいられなかった。




