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相変わらず、メールの返信は遅く、返事もそっけない。上原はもやもやしていた。このままでは近づきようもない。やはり福岡を通じて、会うきっかけを作っていければよかったと改めて思っているが、それはもうできない。自分の力で進むしかない。携帯を閉じて、広報に戻る時に経営推進部の大澤に会った。
「上原」
「おー大澤。社で会うの初めてだね」
「フロア違うもんね」
「こんにちは」
「こんにちは」
「ちょっと、増田さん押しのけないでください」
「大澤の上司の増田です」
「上原です」
「上司じゃなくて、先輩ね」
「上原さんは、どこの所属なの?」
「広報です」
「どおりで」
「増田さん、無駄ですよ。上原モテるから、増田さんなんて、相手にされませんよ」
「ちょっとその言い方……」
「上原さんが嫌味な女みたいになりますよね」
「そうか、失礼しました。でもあんまりガツガツいくと迷惑な場合もありますし」
「そうだな。では大澤を交えて、今度ご飯いきませんか?」
「はい。それだったら、ぜひ」
「ぜひって、断りなよ」
「じゃあ、計画たてます。大澤から連絡させますので、忙しいところすみません」
増田は嬉しそうに歩いていく、それについて大澤も行ってしまった。経営推進部にもしかしたら、いい人がいるかもしれない。種は撒いておかないと。と思っているところに、メールが届いた。「今夜時間ありますか?」と。結城からのメールだった。嬉しくてすぐに返信した。仕事終わって、お茶をすることになった。弾む気持ちで戻ると、水上に呼び出された。
「上原さん。どういうこと?」
「えっ?」
「この間、取材に来てくれた出版社の方から部長あてに苦情がきてるの。今年の広報の新入社員は、仕事をキャバクラと間違えてるんじゃないか?と色目を使われて不愉快だったと」
「色目なんてそんなことしてません」
「そう答えるのは当たり前よね。ただこんな風に部長宛てにわざわざ連絡を入れられるって、なかなかないことだと思うの。でもちゃんと事情は聞きたい。何か怒らせるようなことはしてない?心当たりは?」
「取材中に、お茶を用意して、今年入った新入社員でっていう話になって、自己紹介させていただきました」
「そこに、相手を不愉快にさせるような言動はなかった?」
「はい」
「そう。まぁこちらから、ちゃんと謝罪はしておいたけど」
「私、何もしてないですよ。謝罪なんか」
「うちの会社が成り立ってるのは、メディアや雑誌が取り上げてくれている面も大きいの。その時の対応によって、社がマイナスに働くかもしれない。たくさんの人数で働いていて、1人の軽率な行動で誰かをやめさせないと経営が成り立たないかもしれないと念頭において働いてる?事実じゃないかもしれない。ただの嫌がらせかもしれない。でもあなたよりも付き合いが長いお得意様が今までなかったのに、ご立腹なのには、原因があったとしか思わざるを得ない」
「私は何もしてません」
「信じましょう。でもしばらくは、対外的な仕事はキャンセルします」
「どうしてですか?」
「これは、会社が決定したことです」
「わかりました」
なんだか気分が悪い。色目を使った?誰が気持ち悪いおじさんに使うかよ。話しできて鼻の下伸ばして気持ち悪い。だいたい、メディアに繋がる仕事のコネもないくせに、媚びを売るわけないだろ。と心の中で思っていた。デスクに戻って、視線が冷たいのはわかった。この会社は私を歓迎していない。私の居場所はここではないのかもしれない。
気分の悪いまま、仕事を終えて、結城との約束の場所に向かう。店に着くと結城が待っていた。
「何飲みますか?」
「カフェラテを」
「すみません。カフェラテをお願いします」
「改めて、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
「やっと時間作ってくれましたね」
「いつも返事が遅くて申し訳ない」
「いえいえ、待っているのも楽しみですので」
「楽しみにしていてくれているところに申し訳ないんだけど、もうメールのやりとりをやめたいと思ってて」
「え?」
「申し訳ない」
「メールを交わしてるだけですよね。それも?」
「僕にとっては、とても大変で」
「大変?そんなに迷惑でしたか?」
ここで、カフェラテが届くが、手に取ることはなかった。
「迷惑とかじゃなく、自分が悪いんだ。ズボラで返事に困って悩むのが、思ったよりも自分を圧迫してしまって」
「メールができないなら、どう結城さんと接していけばいいですか?」
「僕は、部署も年齢も違う人とこうやってご飯にいったり、飲みに行ったりするのが、本当に無理なんだとわかって。上原さんが悪いわけではなくて」
「はっきり言ったらどうですか?嫌いだって。その方がすっきりします」
「……。ごめん」
上原は無言で立ち上がり、店を出ていった。人の好意を断るのは、もう嫌で嫌で仕方がない。ただ自分が原因がなかったとはいえない。この場合、好きとは言われてない段階ではあった為非常に難しかった。でも終わりではない。今までもそうだった。あの類の女性を断ち切るのは、簡単なことではないのはわかっている。これからの誹謗中傷が恐怖でしかなかった。
怒りが収まらない。会社の自分の扱いといい、結城の態度といい、今まで学生時代は常にヒエラルキーのトップにいて、キラキラと輝かしい日々だったのに、ここのところ本当にうまくいかない。こんなはずじゃない。こんなとこで負け続けるのは私じゃない。




