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紺滅の中をベッドライトの灯りのあたり部分だけが瞬間に見える。ラジオの音で静けさが増していた。結城はレンタカーを借り目的もなく、走り続けている。まるで自分の心の中に進んでいくように、明るい兆しが見えないようだった。自分のマイノリティに気づいた時に、どうして自分が、普通でいいのに、普通でさえも望めないことに絶望した。自分を認めることができない。自分のこの性癖は誰にも見せられないと思っていた。ただ大人になるに従って、自分と似た境遇の人は案外いることを知った。それも認めつつ、楽しむ人間もいることに、勇気をもらえた。足を踏み入れると、お互いを知り、お互い悩みを言える環境、そのマイノリティの中にも様々な考えがあり、様々な人間がいることを知った。そう。自分のことは実はわかってもらえないことを知った。それでも付き合いを続けて、なんとかついて行こうとするものの、心が疲弊するのがわかった。この世界は案外薄情で、隙をついてくる悪い人間も多いことも知った。性欲を満たすためだけに優しくしたり、仲良くしようとする者も多く、結城自身は正直わからなくなっていた。そう、みんなきっと偽り続けて生きてきたから、嘘が上手で、嘘をつくことに罪悪感を感じなくなっている。哀しいかな、自分も嘘つきなのは否定できない。嘘で嘘を塗り固め、身動きがとれない状態になり、自分のことを話すことを好まなくなった。福岡にこの気持ちを伝えたらどうなっていただろう。いや、そもそも打ち明ける気などない。このことはなかったことにして、友だちとしての関係を続けられたら、どんなにいいだろうか。そんな素晴らしい世界はないこともわかっていた。つまり絶望しか未来はないと。しばらく車を走らせると、道が開けて来た。海が見える。暗闇は変わりないが、海の暗さが、空を少し明るく見せた。海岸線上にあるパーキングに車を停めた。外に出ると冷たい風が心地良く、身を引き締めてくれた。自販機でホットコーヒーを買い、冷えていく身体を温めた。少し歩いて海がよく見える防波堤に座った。暗い海の音は少し恐怖を駆り立て、一気に身体が冷えてきた。少し震えながらも、しばらく海を眺めていた。はじめから見えていた結果じゃないかと言い聞かせる。ただ初めの目的は違っていても、ここまで親密になってしまったことを予想してなかった。ただ眺めてられたら、そのくらいの距離感だったら、こんなに辛い思いをしなかったのに。嬉しくなり、調子に乗って距離を縮めてしまった。淡い期待もなかったわけではない。何かの間違いでこのまま上手くいくかもなんて思っていた。あの日初めて会った日から、こんなことになるなんて思っても見なかった。短い間だったか、幸せだった時間があったことは確かだ。でもこれでもうおしまい。終わらせなければならない。携帯を取り出し、連絡先と今までのメールを消去した。
さようなら。




