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「涼太、土曜日部活の後、天神に行かん?」
「悪い、その日無理」
「なんかあると?」
「ちょっとな」
「ちょっとなに?」
「ちょっと、郡山と約束があるっちゃん」
「郡山と?」
「そうそう」
「郡山と」
「あーもう。デートするとよ」
「は?デート?」
「そう。デート。」
「涼太と郡山が?」
「そう」
「いつからそんな関係になったん?」
「いつからって。つい最近」
「お前ら、いっつも喧嘩ばっかしよったやん」
「そうやけど」
「郡山、涼太なんか眼中にないってこないだ言いよったよ」
「そうやけど」
「郡山、涼太と話しよったら、ムカムカムカして、ボコボコにしたくなるって言いよったよ」
「そうだよ」
「郡山、涼太と付き合いたいって言う奴がいたら、裸になって逆立ちでグラウンド5周してやるって。」
「そうなん?」
「郡山、涼太が」
「もういい。あいつどんだけ、悪口言っとーとかいな」
「そっか。涼太と郡山がね。やったやん」
「おう。だからごめん」
「いやいや。気にせんどって」
そうか。涼太にも、俺とは違う時間が流れてるんだよな。自分がごたごたに巻き込まれている間にも、他の人には他の人それぞれに違う時間が過ぎてるんだ。自分の世界が自分には全てだか、自分の世界がこの世の全てではないんだと。結城は涼太と校門で別れ、紅碧の中を1人静かに歩いて帰っていった。
なんだろう。この感情。
突然わけのわからない感情が込み上げ、走り出す衝動に駆られたかと思うと、もう走り出していた。自分の限界を超えた速度で呼吸は苦しくなり、脇腹も痛くなる。でもそれでも走りをやめられなかった。下校中の他生徒からみたら、頭がおかしくなったと思われただろう。でも周りの目などどうでもよかった。自宅近くの川の橋を渡り、真っ直ぐ進むところを右に曲がり、川沿いの遊歩道にはいった。すでに空は暝色に変わり、人影しかわからなくなっていた。呼吸は荒く、もう走ることができなくなり、膝に手をついて、歩みを止めた。息も落ち着いてきた頃には、汗のせいで寒気がしてきた。そのまま遊歩道を上流に歩く。この時間にここを歩くものはほぼいない。まだ息を大きく吸ったり吐いたりしながら、ずっと一緒だと勘違いしていた自分に言い聞かせた。涼太は自分のものではないんだと。




