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「お待たせ。ごめんね」
「いえいえ、私もついさっき来たところです」
「なんか、意外だな」
「え?何がですか?」
「この店」
「ダメでしたか?」
「いやいや、僕は大丈夫。大衆居酒屋みたいで、居心地いいよ。ただ若い女の子がチョイスしそうにない店だなと思って。おじさんばっかりだし」
「私どんなイメージなんですかね。こういう店の方が好きです」
「そっか。勝手なイメージじゃだめだね」
「そうですよ。人はわからないものですよ」
「だね。わかりやすい人間もいるけど。例えば、福岡君とか」
「ですね。わかりやすい」
「あそこまでど直球な人間初めてみたよ」
「土足で踏み入れてくるんでしょ。私も初めて会った時から、遠慮なく来ましたもんね」
「自分もそうだった。あのキャラクターは得だよね」
「絶対悪い人に見えないですもんね」
「そうそう。絶対悪い人に見えない」
こんな状況にいる自分が不思議だった。1ヶ月前くらいの自分ではあり得ない。ただ可愛い後輩の為に自分のできることは彼のよさをプレゼンすることだと思ったからだ。慣れない相手で、しかも若い女性となると、緊張するし、早くこの場から去りたいと気持ちは焦っていた。
「結城さんの出身ってどちらなんですか?」
「福岡です」
「福岡かぁ。私行ったことないです。とんこつラーメン」
「まぁ一番最初に思い浮かぶかもね」
「入社してから東京なんですか?」
「いや大学から」
「もう東京10年以上なんですね」
「私、入社して東京だから、まだ1年経ってなくて、全然東京観光とかできてなくて、結城さん、もう名所は行きましたか?」
「あ〜。住んでたら、いつか行くだろうと思って、案外いってないかもな。大学入学した時は色々行ったけど、結局ちゃんと観光したのはその時だけかもしれない」
「初めて行ったとこどこですか?」
「東京タワー」
「わっ、一緒です。私も東京タワーでした」
「東京に来たって感じだもんね」
「行ってみたいところってありますか?」
「ん〜まぁ今はスカイツリーかなぁ」
「私もです」
「福ちゃんとさぁ、スカイツリーに登るのがツリーに行ったことになるか、下から見るのだけで行ったことになるか、言い合いになってさ。ほんと自分の意見は曲げないでケンカになってさぁ」
「へぇ。結城さんはどっち派だったんですか?」
「僕は登るまでが行ったって派」
「私も、そっち派です」
「だよね。だから、2人で行ったら、絶対に登るなよって言ったら、行ったら登りますよ。ってほんと引き下がらないんだよ」
「言い合いになって、ケンカして登っても楽しくないでしょうにね。そうだ、よかったら、ツリー完成したら一緒に行きましょうよ。あと半年くらいですし」
「そっか。もうあと半年かぁ」
「ね。行きましょうよ。あっ、私たちまだ知り合ったばっかりで、ちょっと図々しかったですね。まっ、結城さんと行けたら楽しいだろうな」
と、聞いた時に、一気に冷や汗が出てきた。あの時の目だった。結城は一気にわかった。そして、福岡が倒れた時に言っていた言葉の意味も。自惚れではない、上原美織は自分に好意を寄せている。




