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駅を降りて、しばらく進むと一際目立つ大きな居酒屋があり、活気づいているのがわかる。大きな店で、仕事帰りのサラリーマンが賑やかに会話をしているのが店先でわかった。店も大きく、回転も早いようで、福岡と千曲が着いた時にはちょうど奥の方のテーブルが空いたところだった。フロア内は、いくつかのエリアに分かれてて、ひとつのエリアに100人くらい入るほど巨大な店だった。
「ラッキーだったな」
「な。ここまで広い店もなかなかないよな」
「これだけうるさい方が話しやすくていいよな」
「小洒落て、静かで、高い店より断然こっち」
「なんでこんないい店知ってんだよ」
「雑誌でたまたま見て、こんな店が理想って思ったんだよ」
「雑誌見るとか、福ちゃんらしくないな」
「まっとりあえず、生いきますか」
早速生を注文すると、あっと言う間に生中とお通しが出された。流石に回転率が高く、大きな店である。従業員も多い。
「じゃあ、今年1年お疲れ様でした」
「お疲れ」
「同期会の話、梶村から聞いた」
「ああ」
「ありがとな」
「ありがとう?俺、福ちゃんに恥かかせたようなもんだぜ」
「どの道、いずれ恥ずかしいことはバレてたよ」
「同期の空気も悪くした」
「反省してんのか?」
「いや」
「だろうな」
「あん時は、本当に頭にきて、手を出さなくてよかった」
「だな。手を出してたら、今会ってないだろうな。ほんとよかったよ」
「でも福ちゃんの問題なのに、勝手に俺が入っていって。関係が悪化してしまったら申し訳ない」
「だな。ちょっと前だったら、お前を殴ってたかも」
「ちょっと前?」
「そう。同期会の前に言い合いになったんだよ。で、これからは協力できないって言ったんだ」
「その心境の変化はなんだったんだ?」
「なんだろうな。もうすぐ役割が終わると思ったら、虚しくなったんだろうな。わかってたんだよ。自分は利用されてるって」
「それでもよかったんだろ」
「はじめはね。うまくいかなければ、自分にチャンスが巡ってくるって」
「うん」
「なわけないよな。その人がダメでも、自分じゃないってのがわかったんだろうな」
「そっか」
「いや、はじめからわかってたか」
「でも好きだったか」
「でも好きだったんだよ。で、さっき終わらせて来たよ。ちゃんと気持ちは伝えた。その上でもう協力できないって」
「そしたら?」
「あっさりしてたよ。気持ちいいくらいあっさり」
「やっぱクソだな」
「そう、クソだ」
福岡は残りのビールを飲み干した。続いて千曲も。こうやって、痛みを分かち合ってくれる友だちがいてよかったと思った。福岡は恵まれているなと千曲に感謝していた。




