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同期の忘年会で、千曲が雰囲気をめちゃくちゃにした後は、それぞれが解散していった。千曲の発言はその場にいた全員によくも悪くも響いていた。千曲が場の雰囲気を壊したことに憤慨する者、上原を擁護する者、上原を批判する者、千曲の言っていたことに同調している者。少なくとも、全員が9ヶ月前に知り合い、ともに過ごしたとはいえ、小学生ではない。全員で仲良くする必要があるのか疑問符はあった。同期で支え合う関係もこれだけの人数いたら、数人いればいいだろう。結果千曲の発言に救われた者は多かったようだ。上原美優もその1人ではあった。上辺だけの会話には、寒気さえ感じていた。ここの関係が切れても構わないと思っていた。あの会から、批判ははじまったものも腹の中では最初から嫌っていたのはわかる。特に女性陣からはそう思われているのはわかっている。でも自身の目標は女同士の仲良しごっこではない。男性にいかにモテるか、いかにいい男と付き合えるかが目標であり、女同士なんて足の引っ張り合いなんて、23年女をやっていたらわかる。ただ男性人気を得るためには、男性と仲良くするのではなく、女性と仲良く、女友だちが多いというのも、男性にモテる秘訣であるため、あえて男性を寄せ付けないようにしていた。現にそれによって言い寄ってくる男は多く、ちょろいもんだと思っている。だから、最終目標に到達できればその他の評判なんてどうでもいいのだ。利用できるものは利用し、必要なくなれば排除すれば良い。ただあくまでも自分は悪者にならないように。だが今回は失敗したと思っている。千曲のように面と向かってはっきり言ってくる男性がいるとは思ってなかった。あの場で涙を流したものの、咄嗟すぎて、素を出してしまったのも事実で軌道修正が難しかった。擁護派が少数なのは痛い。それは、福岡のキャラクターによるものもあるだろう。中川に本当のことを打ち明けなければよかった。やはり女は信用ならない。
商品開発部2フロア目を見渡し、結城がいる場所を見つけた。
「結城さん、水上課長から頼まれた資料をお持ちしました」
「あー。ありがとう」
「ここに置いておきますね」
「うん」
「お忙しそうですね」
「そうそう。もう少しで終わるんだけど。とりあえず、ひと段落着くまでと思って」
「ひとつだけ、いいですか?よかったら、今度食事でもどうですか?」
「食事?」
「いえいえ、お茶でもいいんです。もし時間があったらです。私とじゃって思ってたら、全然断ってもらっていいので」
「はは。嫌とかじゃなく、自分とご飯行っても、楽しくないですよ」
「いえいえ、福岡君から聞いたことあります。色辞典持ち歩いてるとか」
「そんなこと言ったの。恥ずかしいなぁ」
「実は私カラーコーディネートの資格取ろうと思ってて、色に興味あるんです。話聞かせて欲しいなと思って」
「そうなんだ」
「ですので、ご飯行けたらなと思って」
「わかりました。行きましょうか」
「本当ですか。嬉しいです。じゃあ今日とか」
「今日。急だね」
「思い立ったら早い方がいいですもん」
「わかりました。でも今日ちょっと残業あるから、7時過ぎてしまうけどいいですか?」
「全然大丈夫です。私、新橋あたりに行きたい店があって、予約取れたらそこでもいいですか?」
「高い店とか無理だよ」
「大丈夫です。居酒屋ですから。結城さんのメアド教えてもらってもいいですか?」
「あぁ」
上原の携帯を受け取り、空メールを送った。
「では、メールでお知らせしますね。忙しい中結局邪魔してしまってすみません」
意外にもあっさりと食事ができる展開に驚きながらも、もしかしたら、もう脈ありなんではないかと思ってしまっていた。こんなに嬉しいことはない。弾む気持ちで、広報課に戻る。
店の予約もとれ、結城にメールを送ると、「わかりました」と、早速返事をもらった。この時、人と接することを好まない結城がどうして、あっさりと食事の誘いに乗ってくれたのかわかっていなかった。すると一通のメールが届いた。今日の仕事終わりに少し話したいことがあると。近くのカフェで待ち合わせをした。
もう協力してもらわなくてもいいことを伝えなければいけない。




