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エバーシンス  作者: k-ta
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 オフィスはビル一棟、地上20階地下2階と株式会社コタニは、いわゆる大企業であり、社員数15,052人、全国に支店営業所関連企業を含めると125社にもなる。

 営業部広報課はその中でも花形の一つ。コタニの顔とも言われる。この部署に配属され、1ヶ月ほど経とうとしている。一通り仕事は覚えたものの、とにかく雑用全般、先輩の後ろについていくだけではある。でも企業の顔であることには変わりはない。配属が決まった時は信じられないと思うと同時に飛び上がる程嬉しかった。そもそも、就職が決まったことも信じられない状況で、こんなにも幸せが続いていいのか、少し恐怖さえも感じている。また逆に自分の実力が評価されているようで、頑張ってきたという自負もあり、当然の結果だろうと驕り高ぶった気持ちも否定できない。

 広報課はオフィスの1階と10階にあり、1階は外部に向けて、ショールームも兼ね備えている。10階は実際の広報活動の拠点となり、この2フロアを行き来することが多い。ただ、各部署との連絡も多い為、どのフロアにも行くことがあり、オフィス内の配置図は頭の中に入っている。昔から地図を見るのが得意だったり、初めて行く場所にも、難なくいくのが自然とできていた。広報課員は、全員が部署内に揃っていることはほとんどなく、それぞれの仕事状況を把握するのは、部署内の一角にある、ホワイトボードに集約している。

 私は、広報課員全般の雑用兼課長の補佐についている。仕事量は多いというより、並行してすることが多く、もういっぱいいっぱいに近い。課長である水上塔子は、広報課を引っ張るだけでなく、メディアに出る機会も多く、憧れの存在である。仕事ができるのは当たり前。それだけではなく、周りへの気遣い、課員の仕事の進捗状況も把握し、1人で熟す仕事量を明らかに超えているのに、そう感じさせない余裕がある。

「上原さん、光映社さんのペンの企画内容、目を通した?」

「はい」

「どう思った?」

「どう思ったかですか?」

企画内容に対してどう思ったか。考えもしなかった。

「そう。」

「そうですね……」

何か思ったことを述べないと。

「あれって、各社の目玉となるペンを一企業の一企画担当者が独断で順位を付けるってことでしょ?」

「はい」

「それって怖くない?」

「怖い、ですか?」

「だって、一人の個人的な意見を述べるのは構わないけど、雑誌に掲載するのよ。雑誌を見る人はいろんな人がいるけど、一人の意見とはわからず、多数の意見だと捉えかねないでしょ。それが売り上げに直結するのよ」

「本当だ、そうですね」

「しかも、あってはならないけど、一位に選ばれるものが出来レースで、はじめから決まっていたら?」

「あっ!」

「まず、光映社さんに、審査方法を再検討してもらうことと、各文具メーカーにもその点について意見を聞いてみようと思うの」

「はい」

「文章作成してるから、これから、メーカー各社にメールを送って欲しいのよ。お願いできる?」

「わかりました。メーカーはどこまででしょうか?」

「光映社の企画内容の中に、どのメーカーのペンか候補があがってたはずよ。それを確認して。あと返信があった場合、お礼を忘れずにすること。各メーカーの意見をまとめててね。メールの返信でなく、直接連絡があるかもしれないから、その時は私を通して」

「はい」

「じゃあお願いね。私、今から部長に報告に行くから、その後あなたのメールに文章添付するから。それまでにどこに送るかリストアップしてて」

「わかりました」

水上課長との会話は歩きながらが多い。今回も2階会議室からエレベーターに乗り込み、10階の広報室に戻るまでのやりとりだった。私はこんな仕事がいつかできるのだろうか。何年経っても太刀打ちできる気がしない。憧れはあるが、水上課長になりたいかと言われると、答えはNOである。私には私の道があるはずだ。できない自分を慰めつつ、水上課長を見送り、自分の席につき、企画書をもう一度見直した。

 企画書を見直し、リストアップも済みそうな時に、携帯からメールの着信があった。誰もいないをいいことにすかさず、携帯を開く。目を通し、笑みがこぼれる。そして、パソコンに目を向け、手馴れた様子で、何やら打ち込みはじめる。さっと目を通した後、携帯を開き、メールを返信する。私の日課のようなものになっている。そして再びパソコンに目を向け、今度はじっくりと眺める。誰か帰ってきた。パソコンを操作し、何事もなかったように、リストアップの続きをはじめる。その間に携帯のバイブが静かなオフィスに音をたてて、持ち主に知らせる。携帯を開き、メールを素早く打ち込む。すぐに返信がある。しばらくやりとりを繰り返す。仕事中に何をやっているのだ。そう言い聞かせてながらも、携帯の操作はしばらく終わらなかった。


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