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まだ火曜日、先が長い。再び眠気と闘いながら、一日が始まる。オフィスについて、今日のデスクの位置を確認し、そこに向かう。席に着いて、あ〜外れだと思った。井上さんが近い。すぐに見つかり、椅子ごとデスクに近づいてきた。
「おはようございます」
「おはよう。今日はラッキーデイだな」
気持ちは人それぞれだなと思った。
「でも、今日は残念だ。会議が続いて、ここにほとんどいないのだよ」
「それは残念です」
「だから、ここにいる時は絡んでいいかな」
「仕事しないと叱られますよ」
「ビジネスの話しをすればいいのだよ」
「私は今井上さんと話すことはないです」
「こちらがあるから、もう予約ね。だから、俺がいないうちに、自分の仕事は終わらせておくように」
「わかりましたよ」
「えっ」
「どうしたんですか。のけぞって」
「いつもと違う」
「そうですか」
「なんかあった?」
「もうこのやりとりが面倒なんです」
「やっと、受け入れられるようになったか。長かったなぁ」
「受け入れるって」
「だいたい、その状態になるのが8年って、長すぎだからな」
「はい。すみませんでした」
「ただ、おじさんとしては寂しいよ。子どもが巣立ってしまう感覚」
「子どもの巣立ち経験したことないくせに」
「たとえ話だろがよ。すぐ揚げ足取る」
「すみません。気をつけます」
「わかればよろしい。じゃあ、俺は忙しいから」
と言い放ち、椅子を転がし、デスクに戻っていった。こちらが絡んでいったみたいになっているのが、腑に落ちない。腑に落ちないことが、ここ最近続いている。パソコンを起動し、メールのチェックをする。何通かある中に、水上からのメールがあった。資料の追加を送ってるから確認して欲しいことと、サンプルを持って行くので、座席を教えて置いて欲しいとの内容だった。早速返信し、他のメールに目を通して、業務内容を課長あてにメールした。今日は急ぎの仕事もないので、自分の進めておきたい仕事ができる。それに向けて、早く終わらせてしまおう。気合いを入れる。
少しして、こちらに向かってくる一人の女性がいる。どうやら、自分に用事があるようだ。
「結城さん、すみません。私、広報課の上原です。水上課長から、このサンプルを渡してくるように言われましたので、お持ちしました」
「あー。聞いてます。聞いてます。ありがとうございます」
上原から受け取り、もう用はないのだが、沈黙があり、立ち去ろうとはしない。
「ありがとう。もういいよ。水上課長にまた連絡しますと伝えておいて」
「はい」
と、会話も切り上げたが、一向に行こうとしない。
「どうかしましたか?」
「あ、あの。私、以前他社への対応に不備があって、その時に、助けていただいて、きちんとお礼を言えてなかったので、あの時は、本当にありがとうございました」
「はぁ。えっと。いつのことだったか忘れたけど、どういたしまして」
「私、まだ広報課に配属されたばかりで、そんな時に結城さんに、資料を譲ってもらえなかったら、どうなっていたかわからない状態だったので、神様に見えました」
「はは。神様って。でもなんか処分されたわけではないならよかったです」
「はい。厳重注意で済みましたし、おかげで、そういうミスがないように、気をつけられるようになりました」
「それは、いいことだ。役に立ててよかった」
「はい。ありがとうございました。またお世話になることがあるかもしれませんので、今後もよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ」
上原が緊張していたのは伝わった。恐れている存在に話しかける勇気は並大抵のものではないだろう。振り返ると、急いで行ってしまった。やはり、自分は恐れられている。そして、水上が早速、若い子を送りこんできたのがわかった。しかし、こちらも肩に力が入り疲れてしまう。肩の力を入れずに話せる相手のありがたさが身に染みた。




