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エバーシンス  作者: k-ta
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 金曜日の勤務を終え、足早に帰路に向かう人が多数で、このオフィス街は人でごった返す。向かう方向はそれぞれバラバラな為、動きに統一感はない。福岡も珍しく、金曜日を定時に終えて、社を出ようとしていた。

「福ちゃん。お疲れ」

「おう。阿川。なんか久しぶりだな」

「やっぱ部署違うと、会わないもんだな。話はよく聞くけど」

「ん?あ〜、井上さん」

「そうそう。最近よく飲みに行くって」

「うちの課の先輩の飲み相手で、一緒になる機会が多くて」

「めちゃくちゃ気に入られてるのはわかる。さすがだよ」

「井上さん、飲むのが好きだからね」

「んで、今日は?」

「井上さんと?」

「いやいや、さすがに井上さん、新婚さんだし、そんなしょっちゅうは無理らしいよ」

「確かに同じ課で飲みに行ったりはないもんな」

「阿川は?どっか行くの?」

「俺は今から、合コンよ」

「いいなぁ。誰と?」

「今日は、どっかのOLさんよ」

「どっかって、知らないの?」

「なんて会社か忘れた」

「いいなぁ」

「お前は、上原とうまくいってんだろ」

「うまくっていうか」

「何だよ。うまくいってないの?」

「悪くはないと思う」

「はっきりしねーなー」

「まっ、なんにせよ、羨ましいよ。だから、福ちゃんは合コンの誘いなし」

「えー」

「振られたら、誘ってやるよ」

「えー」

「当たり前だろ。そんな美味しい思いさせっかよ」

「人数合わせでいいから」

「いやだね」

社から離れながら話していると、阿川の足が止まった。

「どした?」

「いや。あれ」

と、目線でさした先には、社の斜め向かい側の植え込み前のベンチに座りこんでいる男がいた。オフィス街では浮いている格好で誰にでも目につく。明らかに異様な空気を醸し出している。

「あの人が?」

「あぁ、この間もいたんだよ。で、うちの会社に桐島っているかって、聞いてきたんだよ」

「桐島って、桐島専務?」

「いや、聞かれたけど、こっちも何も答えなかったから、はっきりわからないけど、桐島って、たぶん専務しかいないんだよな」

「何なんだろな。また、来てるって、しかも直接会うわけではない関係って。怪しすぎだろ」

「な、桐島専務の隠し子とか?」

「あー。それなら、あの怪しさ納得」

「まっ関わらない方が良さそう」

「だな」

少し歩いた後に阿川と別れ、上原との待ち合わせ場所に向かう。結城との距離が縮まり、いよいよ上原と結城を会わせることができる日も近づいていることを上原に報告できそうだ。喜んでくれるだろう。店に着いて、時計を見ると、待ち合わせまで少し時間があった。携帯を見ても、上原からの連絡はない。結城からもない。家に行くのはちょっと図々しかったかなと思いはしたが、嫌なら本当に断ってくるはずだ。結城に住所を教えるよう、催促のメールをしてみる。携帯でネットニュースをいじっていると、上原も時間内に来た。

「ごめんね。待ったよね」

「いや、さっき来たとこ。時間に間に合うとか珍しい」

「待って、だいたい間に合ってない?」

「だいたい間に合ってないよ」

「待たせてなんぼよ」

「あっ開き直った」

「早く、ビール飲みたいの」

「だな。すみません」

2人での会話も自然になり、他愛ないことも話すことにも全く苦はなくなった。酒も進み、話は結城の話題になった。

「でね。結城さんって、本当に話しやすい人で、びっくりしたよ」

「前から言ってるね」

「いや。本当に上原はすごいよ。そんな人を探し当てるんだから。話したこともないのに」

「話してみないとわからない人多いけど、それはよかったよ。最悪な場合もあるから」

「だよな。仕事できるし、人当たりいいし、かっこいいし」

「凄い褒めるね」

「俺の一推し」

「ねぇ。何様よ」

「ただ、彼女いないの謎だなと思ったけど、なんとなくわかる気がする」

「どんなところ?」

「趣味が合わなそう。そして、妥協しないから、歩み寄りがなさそう。何か細かそう。自分でなんでもできるから、完璧を求められそう。基本面倒臭がりだから、一方通行になりそう」

「色々発見したね。でも趣味って、この間話してたのでしょ?私もちょっと色々知ろうと思ってるんだけど、考えたら、福ちゃんと趣味似てない?」

「いやいや、全然違うからね。しかもあっちほど、絶対これしか受け付けませんって、限定してないし、俺は柔軟に、色々受け入れるし、趣味の幅も広いし、比べられると困る。だって、結城さん、ドラマの話も、何話のどこのセリフが好きとかだけじゃなくて、表情とか、シーンの切り替わりがいいとか、視点がマニアックすぎるし、どのクレヨンの並びが面白いか探したり、やってることが変態よ」

「変態って。でも私から、いや私たちからしても、福ちゃんはマニアックな変態よ」

「レベルが違うんだって、レベルが」 

 「あれは、俺が見ても、恋人や奥さんになった人は大変だろうなって思うもん。この間なんか、空の色が何色なのか、色辞典で照らし合わせてたんだよ」

「凄いね。それは変わってる。何か面白そう」

「まぁ、それが面白そうって思うなら、やっぱり、会って話してみてもいいんじゃないかな」

「今度、一緒に食事誘うよ」

「うん。ありがとう。楽しみ」

「びっくりするよ。きっと」

「福ちゃんは結城さんが好きなのはわかった」

「えっ?」

「だって結城さんの話してる時、楽しそうだもん」

「そうかな」

「それだけ、魅力のある人なのもわかった」

「魅力的になるのかなぁ」

「ただかっこいいってだけじゃないって、いいよね」

「そっか、じゃあ俺のプレゼンが良かったのかな」

「期待値上がりまくり」

結城の魅力を伝えられて、上原の期待に応えられていることに、嬉しい反面、急に虚しさ、寂しさが襲ってきた。この関係のゴールが近づいていることを実感した。そして、あの時、高校2年の冬に経験した、記憶が蘇る。あの日、自分のしたことにあれだけ、後悔したのに、また同じことを繰り返して、大バカ野郎だ。今から、ちゃんと上原に気持ちを伝えればあの時の二の舞にはならない。ちゃんと伝えなければ。結城さんを紹介できない。自分は上原が好きだと言え。心の中でそう叫ぶ。でも声にならない。意気地なしだ。


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