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昼休み、廊下を少し小走りに、こんな時にかぎって、人がどうして、通路を遮るのか。
「おい、ブタ走んな」
「誰がブタじゃ」
ガヤなんてほっとけ、4限終わり頃になぜ課題出して去っていくかな。「ヒゲゴリラ、しね。」と心の中でつぶやく。階段を急いで降りて、再び廊下を小走り、職員室前のデッドゾーンはお澄ましして歩く。そして、再び小走り。放送室のドアを開けた。
「遅い」
「ごめん。ヒゲゴリラが余計なことしてな。で、どうやった?」
「なんと、付き合うことになりました」
「おっ、やったやんか」
「そう。ほんと信じられへん。福ちゃん、ほんまにありがとうな」
「いやいや、俺は何も。今日ちゃん、よかったね」
「うん」
放送室に入るや否の出来事で、それから椅子に座り、放送室のミキサーの電源を入れる。CDをセットし、カフを上げ、福岡は話し始める。
「こんにちは。今日9月15日水曜日、天気は曇り。今日はリクエスト特集です。まず一曲目は、福ちゃんのリクエスト曲です。●●●の"△△△"です」
カフを下げるタイミングに、CDをオンにする。
「おっ、私の気持ちを代弁したんやな」
「そうそう。こんな気分やろ。チョコあげて、それでオッケーもらったんか」
「いや、ありがとう。ってだけで、私、心臓飛び出るんやないか思いながら、付き合ってください。って言ったら、考えさせてくださいって。これはダメやなと思ってたら、福ちゃんにメール送る前にさぁ。電話があったんよ。したら、返事やけど、よろしくお願いします。って。もう、跳ね上がったわ。絶対ダメと思っててん、返事にしては早すぎ、って思っとったところに、オッケーって。どんだけドキドキさせるん?って」
「んで、今日、どんなんだった?」
「緊張したよ。朝駅で会って、一緒にきたんやけど、しゃべられんかったわ。昨日までは普通にしゃべられとったのに」
「こんなとこ来てた場合じゃないんやないの?」
「福ちゃんには、お礼言いたかったから。ほんまにありがとう」
「いいえ。どういたしまして」
「よし、じゃあ、会ってくるわ」
「おう。頑張れ。頑張れって変か。行ってらっしゃい」
椅子から立ち上がり、今日子は放送室をでた。1人になった放送室は虚しく曲が流れている。肩の力が抜けた。一つの幸せなカップル誕生に喜んでいる。またいいことをしたなぁ。幸せいっぱいの曲が終わりを迎えるころだったので、2曲目の準備に入る。アウトロを聴きながら、カフを上げるタイミングを待つ。今日はハッピーな曲が続くな。カフを上げる。
「福ちゃんからのリクエスト、●●●"△△△"でした。続きまして、福ちゃんからのリクエスト、○○○"×××"」
カフを下げる。
職員室で聞いていた、放送部顧問の松田は、弁当を食べながらずっこけた。こらこら、福岡。職権乱用じゃないか。松田は急いで、弁当をかき込む。食欲の方が先のようだ。そもそも、昼休みの放送なんて、ほとんどが聞いてない。放送室では肩を丸くした男が1人暗い中にいる。結構凹んでいるらしい。流れる曲も耳に入ってこない。3曲目は、◎◎◎の"▲▲▲だな。CDに手を伸ばす。今日子。好きな人の幸せはなんて嬉しいんだろう。
「お聴き頂きましたのは、○○○"×××"でした。本日ラストになります。福ちゃんからのリクエスト、◎◎◎、"▲▲▲"お聴きください。」
イントロが流れはじめた。カフをゆっくり下げる
「福岡、こらっ。」
乱暴にドアが空いた。福岡が振り返ると、鬼の形相の松田が立っていた。普通は驚くだろう。きっと叱られると思うだろう。しかし、福岡の反応は薄い。とても薄い。自分の悪事を完全に悪事と思っていないことに、松田は気づいた。
「福ちゃん、なんかあった?」
「えっ。いえ。」
「なんか暗いで。」
「あ〜雨降りそうですもんね。」
放送室からは見えることのない空をみている。重症だ。松田は、すぐに察することができた。しかし、相変わらず選曲が10年くらい古い。まぁまだましか。放っておくと、どんどん古くなっていくから、今回は許してやろう。
「ちゃんと授業に間に合うようにいかなあかんで」
「はい」
松田は放送室を後にして、職員室に戻った。
「福岡君またふざけたことしてますね」
「ですね。ほんま好き勝手して困ります」




