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「あの、すみません」
会社を出たところで、パーカーにスウェット姿の10代後半から20代前半くらいの青年が阿川に声をかけてきた。よく見ると年齢不詳だ。阿川は23歳。同級生にも見えるが、30代前半に見えなくもない。ただ服装で言えば10代後半だ。だが10代は言い過ぎである、肌の貼り具合は10代ではない。
「はい?」
「コタニの社員の方ですか?」
「はい」
「そうですか。あのこちらに桐島という人が務めてると思うんですが」
「桐島ですかぁ」
桐島と聞いて、阿川はすぐに桐島専務のことを思い浮かべたが、この青年と桐島専務に全く繋がりを感じることができなかった。他に桐島。社員数も多いので、流石に全員の名前などわからず、阿川の周囲にはいないことは確かだった。
「ちょっと、わからないですね」
「お疲れ〜」
「あっ、井上さん」
と振り返るや否や、
「すみません。ありがとうございました」
と、年齢不詳の青年は、俯きながら、去っていった。
「どうした?」
「あの人に、この会社に桐島って人はいないかって」
「誰?」
「さあ。誰とも名乗らず」
「なんか言ったの?」
「いや、わかりませんって。現にわからなかったから」
「わかってたら、言うつもりだったのかよ。危ねーな」
「そうですよね」
「そうですよねじゃねぇだろ。お前そんなこともとっさに判断できないのかよ」
「……」
「すまん、情報を流したわけじゃないのに言いすぎた」
「いえ、言われたように、そこまで意識してませんでした。気をつけます」
「なんか見るからに怪しい奴だったな」
「はい。でも桐島って、うちの社じゃ、桐島専務しか思い浮かばなくて、他にもいるんすかね」
「桐島専務がいることは知ってたんだな」
「はい。でも桐島専務の知り合いである接点が全く思いつかなかったんで」
「繋がりがあるかはわからないけど、本社で桐島って専務しかいないんじゃないかなあ」
「なんだったんでしょうね」
「まっ、気をつけろよ。話変わるけど、お前の同期に福岡っているだろ?あいつ、面白いな」
「福岡、知ってるんすね。独特なオーラを放ってるでしょ?」
「俺の営業の同期の後輩で、こないだ一緒に飲みに行ったんだよ。ありゃ、ほんと今まで見たことない癖がある奴な」
「同期でも、浮いてましたよ。みんなに好かれてましたけど」
「あの風貌がとっかかりやすいのもあるな」
「人事の人たちと、普通に会話してて、もう入社10年くらい経ってそうな貫禄でしたもん」
「本当。まれに見る典型的なおじさんだな」
阿川と会話しながら、駅に向かっていたが、桐島を尋ねてきた、青年のことが井上は気になった。ボツになった企画といい、桐島専務に関する話題がここ数日で、急浮上している。




