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社用車で営業先に桜井と向かっている。桜井は配属後に一緒に営業に回り、指導してくれる大先輩である。配属初日にサプライズされたとはいえ、桜井が助けてくれたと脳内で勘違いしたままで、素直に指導を受け入れている。ただ1ヶ月一緒に過ごすなかで、日に日に、本当に尊敬できる先輩に進化している。10年営業をしているからだけではなく、人として尊敬できるところも多い。仕事だけでなく、仕事が終わった後も飲みに誘ってくれたり、部署の輪にもすぐに入れるように配慮してくれ、今ではもう"福ちゃん"の愛称でいろんな人に可愛がって貰っている。仕事はまだまだ勉強中だか、仕事は楽しくできている。一つ目の営業先を終え、次に向かう時にふと聞いてみた。
「桜井さん、桜井さんは、他部署の同期の人たちと今もよく交流ありますか?」
「あー、仲良いよ。今でもやっぱりよく飲みに行くし、ただ、就職氷河期も合って、今みたいに採用多くなかったし、もう10年立ってるから、各支店に移動して、バラバラになってたり、転職したり、結婚退社してたりで、本社にいるのは20人もいないんじゃないかな」
「そうなんですね」
「人数が少ないから、繋がりは深いと思ってたけど、10年も経てば、それは関係なかったような感じだな。今でも飲みに行くってのは、何人かだもんな。それより、同じ部署での飲みが増えるよな。やっぱ共通の話題で盛り上がれるし、過ごす時間が長くなるから」
「なるほど。いつまでも大人数でわいわいってのはなくなるんすね」
「当たり前だろ。大勢で行っても、結局一緒にいるメンツは固まってきて、そこだけで盛り上がるだろ。4人までだな」
「たしかにそうですね」
「今も仲良い人って、どこの部署の人ですか?」
「同期で、一番仲良いのは、名古屋の営業の奴なんだよな。本社だと、商品企画部と人事の2人かな。しょっちゅう飲みに行くのは。まぁ、人事のやつは子ども産まれたばっかりだから、誘いにくくなっちゃったけどな。そう、あの、お前もわかるだろ、人事の崎本」
おっ。と福岡は思った。引っかかったのは実は商品企画部の方だ。
「あー。崎本さん、わかります」
「そういや。この前お前のこと気にしてたよ。福ちゃんどうって?」
「話題に上がるなんて」
「新入社員に見えないくらい貫禄があるだろって。お前の印象は誰もが一緒だよな」
「お褒めのお言葉ありがとうございます」
「お前の方が先輩じゃないかって錯覚するもんな」
「それはないわー」
「おい。タメ口」
「すみません」
「福ちゃんに言われても、なんで腹立たないんだろうな。人徳だよな」
「ありがとうございます!」
「声!」桜井は耳を思わず塞いだ。
「桜井さん、今度崎本さんとか商品企画部の、えっと誰でしたっけ?その方と近々飲みに行く予定はあるんですか?」
「井上な。いや、予定はない」
「今度崎本さんと飲みに行く時、俺も呼んでください。研修の時お世話になったっきりだから、会ってお礼言いたいです」
「おっ、いいね。福ちゃんなら、崎本もオッケーだろう。今予定聞いてみっか」
「さっそく。あざーす」
「今週行く?」
「はい。自分はいつでも大丈夫です」
「予定ないのかよ」
「先輩の誘いが一番す」
「ほんと調子いいな。でも今女と遊びたいんじゃないのか。先輩と飲んでも楽しくないだろ」
「いや、先輩方と飲んでる方が楽しいですよ。女と飲むと気いつかって、疲れるだけですもん」
「俺らには気を使わないのかよ」
「はい。」
「そこ、気を使うとこ。」
「とにかく疲れてしようがないっすよ」
「たくさん女がいるような口ぶり。お前、こないだ好きな奴いるって言ってたよな」
「はい。かわいいんすよ」
「誰?うちの会社?」
「はい。同期で、広報にいるんですけど。ほんと、かわいい」
「どんな奴。見たい見たい」
「だめです。先輩が好きになったら困ります」
「馬鹿だねぇ。なるわけないだろ」
「そんなのわからないでしょ」
「俺、彼女いるんだよ」
「好きにならない根拠になってませんよ」
「ならねって。見してみ」
「ちょっと待ってください。信号止まったら。でもまじ惚れないでくださいよ」
「大丈夫だって」
信号が赤に変わり、車が止まるとすぐに、携帯を取り出した。すぐに写真を出して見せた。
「この人です」
「ちょっと貸して」
「ん〜たしかにかわいいな」
「でしょ。実物とかまじ最高ですから」
「よし、今度そいつと会わせろ」
「いやです。惚れないって言ったでしょ」
「ばか。福ちゃんをよろしくって、先輩として挨拶してやるんだよ。こいつはほんとにいい奴で、先輩が保証するって」
「嘘でしょ」
「本心だよ」
「絶対、会わせません」
「何課の誰だっけ?」
「……」
「いいや。広報部だろ?すぐわかるし」
「本気で会うつもりですか?」
「こんなのはな、先輩後輩関係ないの。俺と会って、そいつが好きになっても、誰も悪いわけじゃないだろ」
「悪魔だ」
「そんだけかわいいなら、お前もグズグズすんなってことだよ」
「広報誰がいたっけなぁ」
たしかに人を好きになるには、周りのことは関係ない。好きという感情はどうすることもできない。先輩後輩は関係ないし、世の中には結婚してる相手を好きになる人もいる。好きになるのは誰にでも自由だ。ただそこに、結婚してるだの、好きな相手に好きな人がいるだの。好きになった人が親友の恋人だったり、状況によって諦めないといけない場面もある。これが諦められないで、いざこざが発生することもまたある。どういう行動をとるかは、その時になってみないとわからない。順番なんて関係ない。だが自分は今、好きな人が、好きな人と結ばれるように手伝っている。なんて滑稽なのだろう。でも好きな人に好かれたい。好きな人の為に頑張れば、頑張りを見て好きになってくれるかもしれない可能性に賭けている。
結城純平。2003年入社で、8年目。マーケティング課勤務。入社して8年の営業は、井出さんがいる。井出さんに結城の事を直接聞くのは、いきなり怪しい。直接探りを入れずに潜入を試みるなら、マーケティング課の人物になんとかして、知り合いを作りそこから、結城と知り合いになるのがベストだが、非常に面倒だ。いきなり結城はどこだ。友だちにならんかい。と順番をすっ飛ばしていきたいとこだ。マーケティング課には、同期はいない。商品企画部の阿川、野波から近づくか、桜井先輩の同期井上さんからいくか、同期の井出さんからいくか。なかなか難しい案件である。
営業が終わって、社に着いた時に、桜井が携帯を見ると返信があった。崎本からだ。崎本の返事は自分を含め、行くことを了承していて、今週末仕事終わりにどうかと連絡があった。
「どうする?金曜日オッケーでいい?」
「はい。桜井さんが大丈夫であれば」
ここでもうひと推し、
「そういえば、崎本さんと飲むのは久しぶりですか?」
「あー。どんくらいだろう。まぁ久しぶりかなあ」
「じゃあ、商品企画部の井上さんでしたっけ?その方も誘って、久しぶりに集まったらどうですか?桜井さんたちの話めちゃくちゃ楽しそうで、聞きたいです」
「やっぱお前変わってんな。そんな中に入りたいって思うかね」
「変態なんすよ」
「福ちゃんがいいんなら、井上にも声かけよっかな」
桜井は崎本に返信した後、井上に連絡をいれていた。"よし"とまだ決定ではないが、我ながらスムーズにもっていけた。ただ裏テーマはあるものの、先輩との飲み会は大好きだ。とにかく、勉強になるし、経験を重ねて分体験談が面白く、話しの持っていき方が上手く惹きつけられる。学生時代も同級生と飲むより、ゼミの教授や、サークルのOB、バイト先のお偉いさんと飲みに行くのが楽しかった。だから、純粋に楽しみではある。程なくして、返信があり、井上も参加となり、行きつけの店に予約をいれた。
上原とのやりとりを頻繁にできるようになり、結城の情報を伝えられない中でも、雑談的内容を送っても平気になってきた。あのデートと言えないデートから10日程経ち、やっと動き出したところだが、まだ全く結城に近づいたとはいえない。なので、結城情報をゲットするまでは、動きを伝える必要はないかなと考えたが、それでは、待たせ過ぎて、上原自身も別の手段を考えてしまうかもしれない。繋がり続けないと。今日のことをメールで送った。ありがとう。との返信と共に、日曜日に遊園地に行かないかという誘いのメールがきた。もう嬉しくて、跳ね上がり、俄然やる気が出てきた。




