3.冒険はまず探索から
私たちの寮は学園の東側に位置しており、他の新設した寮と違って本校舎の近くの森の中にぽつんと1つ建てられている。昔はもっと寮が建っていたらしいが、老朽化が進んで私たちの住んでいる寮以外、全て取り壊されてしまった。
私たちは森を抜けると、広々とした校庭の入り口にたどり着いた。
「この時間だと、校庭は訓練目的で使ってる生徒が多いですね」
「そうだね。横切るのは悪いし、迂回して校舎の中に入ろっか」
こうして校庭を迂回しながら進んでいると、ベンティアは歩きながら校庭で訓練をしている生徒をじっと見つめていた。
「ベンティアちゃん、何か気になることでもあるの?」
「キラキラ、きれい、、」
「幻素のこと?この学園にいる生徒なら誰でも使えるよ。まぁ私は苦手だけど……そういえば、ベンティアちゃんの色は何色かな?」
「い、ろ?」
「幻素には8色の色があって一人一人操れる色が違うの。ちなみに私は緑!」
「私は茶色だ」
「……き、黄色だよ」
「………わかん、ない」
ベンティアちゃんはそう言って下を向いてしまった。
「ま、まぁ、発現させるのが苦手な人もいるし、落ち込むことないよ!ベンティアちゃん!」
「部長の言う通りだ。私は黒鉛を硬化させることぐらいしかできないし」
「……うん!」
ベンティアちゃんは意外にも早く立ち直り、楽しそうに校舎の入り口の方へ走って行った。
「あ!待ってベンティアちゃん!!」
私たちは急いで追いかけて何とかベンティアちゃんを捕獲することに成功した。ベンティアちゃんは本当に無邪気で、言っては悪いがとても15歳とは思えないほど自由奔放だ。学園はとても広く、迷子になっては困るので私は彼女の手を握りながら食堂の方へと向かう。
学園の中は休日だというのに部活動や訓練に来ている生徒たちでごった返していた。特に一年生は初めてなのでみんなどこか緊張しつつも生き生きしている。こんなに一年生がいてなぜトレハン部に入部してきたのはベンティアちゃんだけなんだろう…………思い当たることしかなかったので、私は考えるのをやめた。
「まだ朝なのにすごい人の多さ」
「ムラビト、たくさん……!」
「む、むらびと?」
「冒険ごっこ、かも?」
「なるほどな。それじゃあ部長は盗賊ですね」
「なんでよ!せめてトレジャーハンターって言ってよ!」
「ドリムちゃんは、、魔法使い?」
「……ベル、なぜだ」
「だってほら、いつも本持ってるし……」
「そう言うベルちゃんはゲーマーかな?」
「それ役職としてどうなんです?」
「最近のゲームだと、まぁまぁあるかも。それに私はゲーマーって言われるの、嬉しいです」
「ほら、ベルちゃんは納得してるよ!じゃあ最後はベンティアちゃんだけど、まぁ、決まってるよね!」
「わたしは、ユウシャ!!」
こうしてベンティアちゃんを先頭に、私たちはずんずんと廊下を歩いていく。その物珍しい光景に一年生は興味津々で、私たちのことを知る2、3年生は『またこいつらか』と言いたげな顔でこちらをチラ見しながらすれ違っていく。
「……視線がむかつきます。部長」
「まぁまぁ、今週はベンティアちゃんのしたいことを手伝う週だから」
「………」
イラついているドリムをなだめていると、前から黄色い長髪で眼光が鋭い生徒がやってきた。彼女はこちらを見るといきなりため息を吐いて話しかけてきた。
「まったく、あなたたちは何をしているのですか。特にドリム、ベル、"生徒会"の一員たる者が生徒の前で醜態を晒すなんて言語道断です」
「醜態?ただ縦一列に並んでいるだけですが」
鋭い言葉を放つ彼女に対しドリムはすかさず反論した。
ドリムとベルは驚くべきことにかの有名な"生徒会"に所属している。このように他の生徒会員と話しているところを見ると、我ながらすごい子たちをスカウトしたものだなぁと感じるである。
「あ、あの、エミリ副会長、私たち、そんなに変なことしてないと思い……ます」
「……ベル会計監査、ドリム総書記官、あなたたちの下には数多くの執行委員がいるのです。彼らの模範となる行動を心がけなさい。あと、メルさん」
「は、はい!」
いきなり名前を呼ばれて慌てて返事をした。
「あなた方が所属しているトレジャーハンター部について、学園が特例で認めたとしても、また何か問題を起こしたのなら私の"超法規的権限"で即時廃部にするので、くれぐれも気をつけてくださいね」
「き、肝に銘じます!」
彼女は私の言葉を聞くとそのまま勇者のパーティーを通り過ぎていった。物々しい空気に耐えきれなかったのか、周りには誰ひとり生徒は見当たらなかった。
「私、あの人嫌いです」
「わ、私も苦手……」
「問題起こしたら廃部……うぅ、頭が痛い……問題なんてすでに山ほど起こしてるよ……今日だって扉壊したし……」
「バレなきゃいいんですよ。バレなきゃ」
「それでいいのか生徒会………あれ?そういえば、ベンティアちゃんは?」
「……いつのまにかいなくなってますね」
「まずいよ!学園は広いから迷子になっちゃう!」
「それなら、手分けして探しましょう。食堂を集合場所にして、見つけたら一緒にそこへ向かうってことで」
「わかった!それじゃあ、ドリム、ベル、先に見つけた人が次の週の担当になれるってことで!」
「え、?」
「ちょっと部長、次は私のはず———」
「よ〜〜いスタート!!」
私は無理矢理開始の合図を言う。すると二人は慌てた様子でベンティアを探しに行った。私たちトレハン部にとって週の担当というものは、自分のやりたいことを強制的に手伝わせることができるのと同時に、自分の趣味を他の部員に共有できる絶好の機会でもあるので、何としてでも獲得したいものなのだ。
「ドリムには悪いけど、私の今週の分を取り返させてもらうよ!」
こうして、宝探しならぬ勇者探しの冒険が始まった。