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2.初めての冒険へ




「……それで、新入部員が玄関の扉を消し飛ばした、と」


「はい……」


「ご、豪快だね……」


「……もぐもぐ」



今現在、起きたベルと帰ってきたドリムに新しく入部したベンティアについて説明していたところだ。皆困惑しつつも、あのチラシで来る人間はある程度ヤバい奴だろうと思っていたので、案の定というか、何というか……。



「ベンティアちゃん、紹介するね。このいつも本を持ち歩いている人がドリムちゃん、それで髪が長くて眼鏡をかけてるのがベルちゃんだよ」


「……ホンと、メガネ」



ベンティアはそう言って指をさす。



「ちゃんと人の名前は覚えなさい。それより部長、玄関はまぁ、後で工務部に頼むとして、彼女が入部したら廃部も寮強制退出も無しになるんですよね?」


「そうだよ。部員が増えて、部も安泰、まさに一石二鳥!」


「やった……!これで4人パーティーが組める……!」


「入部するからには歓迎しますけど、ちゃんと"トレハン部の鉄則"は説明しましたか?」


「ああそれなら!ベンティアちゃん、はい!復唱!」


「鉄則第一条!」


「こころに、宝!」


「第二条!」


「勝手に、入るな!」


「第三条!」


「約束、守れ!」


「第四条!」


「鉄則、絶対!」



ベンティアはさっき覚えた鉄則を見事に復唱してみせた。



「えらい!ベンティアちゃん!ちゃんと覚えてたね!」


「大幅に省略してますけどね。というか、部長のその幼児を相手にするような口調は何なんですか」


「だって……健気でかわいいんだもん……はい!ご褒美のパンだよ!」


「——!ありが、とう!」



ベンティアはパンを受け取ると美味しそうにもしゃもしゃと食べる。小さいお口で頑張って食べてるのがなんとも愛らしい。



「確かに……マスコットみたいでかわいいね」


「でしょ!さすがベルちゃん分かってるねぇ」


「はぁ……じゃあベンティアもここに住むんですよね?だったら部屋を紹介しないと」


「そうだね!来て!ベンティアちゃん!二階に君の部屋があるよ!」



そう言って私はベンティアの手を握って早速二階に上がろうとするが……



「……部長。階段のお宝そろそろ片付けてください。今までは部長だけが二階の部屋だったからよかったですけど、ベンティアも使うようになるなら滅茶苦茶邪魔です。片付けられないなら私が整理します」


「ちょ、ちょっとまってドリムちゃん!もうここにしか置けないの!」


「置けないのなら売るか博物館に提供します」


「そ、そんなぁ、殆どのお宝が手元に残らない中、やっとの思いで掻き集めたんだよ?」


「それじゃあ、ヨカ先輩が海から引っ張り上げた超巨大碑文と同じように寮の隣に置きましょう。……あの碑文も日当たり悪くなるのでどけて欲しいのですが」


「ぐぬぬ、仕方ない……。明日には運んどくから、今日はちょっと我慢してね。ベンティアちゃん」


「……うん」



お宝で狭くなった階段をなんとか登り終えて、右に曲がってすぐそこにある扉の前に移動した。そこで私は重大なことに気がついてしまった。



(し、しまった、お宝が置けなくなったからここに置いてんだった!どうしよう……ひとりひと部屋の約束がある以上、バレたらきっと……)



「どうしたんですか部長。はやく開けてくださいよ」


「あ、あ〜〜ねぇみんな、ここって長い間開けてなかったじゃない?ホコリとかすごいと思うからベンティアちゃんが吸っちゃわないように私が掃除しとくよ!だから今日は私の部屋で一緒に———


「ベンティア、入っていいよ」



ドリムの無慈悲な一声で、ベンティアは意気揚々と扉を開ける。そこには部屋一面に置かれた宝の山があった。



「説明してもらえますか?部長?」


「いやね、これは———


「ベンティア、第三条」


「約束、守れ!」


「う……」


「メルちゃん……流石に私も擁護できないよ……私だって新しいゲームの置き場に困ってるのに……」


「うう……」


「そういうわけで部長。今日中に全部外に出してください。あと今週は部長じゃなくてベンティアのやりたいことを手伝う週にします」


「……はい。すいませんでした……」



こうして私がせっせとお宝を外に出している間、ベルとドリムはリビングのソファでベンティアにあれこれ質問をしていた。



「ベンティア、君のやりたいことはなんだ?」


「やりたい、こと?」


「なんでもいいんだよ。例えば、私だったらその、ずっとゲームをしたりとか」


「…………ユウシャ」


「……ん?」


「ユウシャに、会いたい」


「勇者?……だれのことだ?」


「わたしを、たすけてくれた、人。その人に会いに、ここに、来たの」


(……ねぇドリムちゃん、もしかしてヨカ先輩のことかな?)


(だとしたらマズイな。ヨカ前部長はもう卒業している)


「ね、ねぇ、ベンティアちゃん。どうしてその人に会いたいの?」


「……わたし、も、ユウシャに、なりたい。だから、なり方を、おしえて、ほしい」


「なり方か……それじゃあ、身なりだけでもそれっぽくしてみるのはどうだ?剣だったり、盾だったり。そういえば、ベンティアも学園の生徒なんだから専用の武器は持ってるはずだよね?」


「……?」


「ドリムちゃん、まだ入学したばかりだから貰ってないんじゃない?」


「そう?私のときは結構はやく貰った気がするけど……」


「……おなか、すいた……」



ぎゅるるるっとベンティアのお腹が鳴る。さっき朝食を食べたばかりなのに、彼女はすぐにお腹を空かせてしまった。



「……確か休日でも食堂はやっているんだよな」


「うん……部活動終わりに利用するひとが多いみたい」


「部長!!ベンティアはあなたの質素な朝食じゃ満足できなかったそうですよ!!」


「え!?」


「だから今から食堂に向かいます!!部長も一旦降りてきてください!!」


「なるほど、は〜い!!」



私がお宝の整理をちょっとしてから一階に降りると、みんなはもう出発の準備ができていた。



「みんなお待たせ〜〜!それじゃあ行こうか!ベンティアちゃんと共に行く、初めての冒険へ!!」


「冒険は言い過ぎですよ。確かに学園は広いですけど」


「ボウ、ケン……!!」


「ほら!ベンティアちゃんはやる気十分だよ」


「……勇者に冒険はつきものだからね」



こうして、私たちトレハン部は、休日の学園へと向かうこととなった。

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