1.新入部員は侵入部員!?
———ジリジリジリジリジリジリ
「う、う〜〜ん」
虫の鳴き声みたいな朝の目覚ましに叩き起こされた。休日は普段目覚ましはかけないのだが、今日は自分が朝食担当なので少し早く起きなければならない。
ボサボサになった髪を鏡の前で軽く整えてから、一階のキッチンへと向かう。階段には前部長と自分がこれまで集めた数多くのお宝が両脇に並んでいる。自分の部屋に入り切らなくなったので、ここに置いていたのだが、流石にそろそろ邪魔になってきた。
(うう……通りづらい……いやまぁ自分のせいなんですけど)
慎重に階段を降りると、リビングのソファにベルが携帯型ゲーム機片手にうつ伏せになって爆睡していた。
(ベルちゃんよだれまで垂らしてる……きっとまた夜更かししてそのまま寝ちゃったんだろうなぁ)
起こさないよう静かに移動しながら、キッチンに向かう。
(今日の朝食はパンでいいよね。適当に焼いて卵乗っければバカ舌な皆なら満足するはず)
非常に失礼なことを考えながらキッチンに入ると、冷蔵庫の前に誰かいる。
(……?だれ?ベルちゃんは寝てるし、ドリムちゃんは朝早くから起きて、公園で読書するのが日課だし……もしかして先生かな?)
丁度椅子の後ろにしゃがんでいて姿が見えない。まわり込むようにして移動すると、そこには今日使うはずだった冷凍パンをそのままむしゃむしゃと食べる、真っ白な長い髪の女の子が座っていた。
「……………だれぇぇぇ!?」
「———!」
私も驚いたけど、その子はもっと驚いたらしく、びょんっと飛び上がってキッチンの隅に逃げてしまった。
「こ、怖がらないで、いや怖いのは私もだけど……君はどこから来たの?」
「……トモダチ、に、つれて、こられた……」
「トモダチ?友達って誰のこと?」
彼女は怯えながらポケットの中からくしゃくしゃになった一枚の紙を手渡してきた。
「……入部届?」
それに裏面に何か書かれてある。めちゃくちゃ細かい字で。
《やっほーー★顧問だよ〜〜!実は君たちに良い知らせと悪い知らせがあるんだ。悪い知らせは君たちが古い寮を勝手に占領して同居してることがバレたことと、健全な部活動ではないってことで、上からの圧力で廃部になりそうなことだよ。これを見たのがメルだったら気を失っちゃってるかも》
「……………へ?」
気を失うどころの話じゃないよ!!廃部?廃部なの?ヨカ前部長がいた頃の栄光、もう効力切れちゃったの?どうしよう……このまま廃部にしちゃったら……
いや、まだ、まだ続きがある!!
《だけど次は良い知らせ!もし君の目の前にいる女の子を入部させて、きちんと面倒をみれるのなら、寮のことも、廃部のことも、全て不問になるからね!どうして?なんて考えちゃだめだよ。今は重要じゃないからね。それに、彼女は自分の意志でこの部を選んだんだ。温かく、迎えてあげてね》
「………」
紙に書かれた内容をひと通り読んだあと、私は目線を彼女に向ける。私に対してまだ怯えた様子で縮こまっていた。
(……過程は兎も角、この子も、"お宝"を探しにこの部に来たってことだよね、先生)
「ねぇ、君の名前はなにかな?」
私は彼女に目線を合わせて、優しく微笑みかける。
「……ベン、ティア」
「ベンティア……いい名前だね!ベンティアはこの部に入部したい?」
ベンティアはゆっくりと頷いた。
「よし!それなら、今日から私たちは、共にお宝を探し求める、冒険の"仲間"だよ!ベンティア!!よろしくね!!」
「———!なか、ま……」
彼女は顔をあげて、私の眼を見る。ベンティアの眼は、宝石みたいに透明で、美しかった。
「……あ、そういえば、どうやって中に入ってきたの?扉の鍵は閉まってたはずだけど」
「……ん」
ベンティアはてくてくとキッチンを出て、リビングを通って玄関の前まで歩く。私もあとをついていくと、扉があった場所は、なんとも清々しい朝日が入り込む、開放的な場所になっていた。
「………うっそぉぉぉ……」
「邪魔だった、から、消し、た!」
彼女はなぜか嬉しそうに笑いながら、でかい穴が空いた玄関の前でくるくる踊っていた。
(ヨカ先輩……今年も波瀾万丈な一年になりそうです……)
朝日が白い髪に反射して、とても眩しかった。