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徹「旦那は大丈夫か?気がつかれなかったか?」
浦道 徹52歳。大手建設会社の社長。妻と2人の女の子がいる。かなりの大金持ちだが婿養子である。
真理「会ってすぐにバカ男の話?」
徹「いやいや、悪かった。君の事が心配だから…」
真理「バカ男は大丈夫よ。朝からバカ男の話は止めて。気分が悪くなるわ。」
徹「…すまない。まぁ機嫌を直してくれよ。今日は君にイイ物を持ってきたんだ。」
真理「いい物?何?奥さんとの離婚届けとか?」
徹「おいおい。『離婚届け』って、ブラックジョークか?…勘弁してくれよ。妻とは、いずれ離婚するけど…もう少し待ってくれ。君が好きな物だよ。」
真理「何?」
徹「後部座席に袋があるだろ。それを取ってごらん。」
真理「あっ、うん。」
真理は黒い紙袋から赤いリボンのついた箱を取り出した。
真理「開けていい?」
徹「もちろん。君へのプレゼントだよ。」
真理は箱を開けて笑顔になった。
真理「うわ〜!これ私が大好きなグッチチの限定200個のバッグじゃない?どーしたの?どーやって手に入れたの?本当にいいの?すごーい!すごーい!」
真理は目を輝かせて子供のように喜んだ。
徹「手に入れるのが大変だったよ。あっちこっちに手を回して、やっと入手したんだ。」
真理「本当に有り難う。でも、これ高かったでしょ?まぁアナタには小銭でしょうけど。」
真理はイタズラっぽく茶化した。
徹「バカ言え、200個限定で1個が300万もするバッグが小銭の訳ないだろ。バッグ1つで車が買える。」
真理「ふ〜ん。じゃあ、この車はいくらしたの?」
徹「この車か?…この車は2500万だったかな…」
真理「車1台で何が買えるかしら?」
徹「分かった、分かった。300万なんて小銭だよ。それより朝は食べてきたのか?」
真理「朝は少しだけ食べてきたけど…」
徹「喫茶店でも入って食べるか?」
真理「喫茶店?…あんまり他の人と顔を会わせたくないんだけど…」
徹「そうだな。誰か知り合いにでも見られたらマズイからな。それじゃあホテルでルームサービスを頼む事にしよう。」
真理「うん。じゃあ次の信号を左に曲がりましょ。」
徹「今日は夜まで平気なんだろ?」
真理「夜まではダメよ。夕方には帰らないと…」
徹「なんだ。夕方には帰るのか…まぁ仕方ないな。」
車はホテルの地下駐車場へと消えて行った。
丈 はホテルのロビーのソファーに座って新聞を読むフリをしていた。
新聞で顔を隠しながら息を切らし汗をダラダラかいていた。
真っ赤なスポーツカーが向かって行く方向には何もなかった。
だとしたら、このホテルしかない!と思った。
光駅の周辺は少しは栄えているものの、都心から離れているし観光するような場所もない。
ここ最近、出来たニュータウンなのでラブホテルすらない。
高そうなスポーツカーを乗り回すようなやつが行くなら、このグランドピアノホテルしかないとふんだのだ。
グランドピアノホテルは一流のホテルでロビーには名前の通りグランドピアノが置いてあり、いつも生演奏をしている。
ランチもディナーも美味しいと評判で予約をしないと食べれないほどだ。
そんな一流ホテルを何故、この光駅周辺に建てたのかは不思議だ。
もし真理が、このホテルに来ていないのなら苦労も水の泡だ。
…いや水の泡であって欲しい。
真理が浮気をしているなんて思いたくない!
しかし丈の思いはすぐに破られた。
ある男のすぐ後ろに真理の姿を見つけた…
丈 は愕然とした。
持っていた新聞の端を強く握りしめ震えていた。
つづく