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1 始

挿絵(By みてみん)


 いつものように川縁の道を会社に向かい歩いていただけだが、空気感が違う。

 家を出た時間も乗った電車も同じなので出会う顔も同じ。

 綺麗な顔があれば、そうでない顔も多い。

 馴染みなのだ。

 いい加減規制を強化して欲しいと願うが、歩き煙草をする人の顔も同じでウンザリする。

 煙草呑みが擦れ違うと朝の空気が穢れる。

 風があればマシだが、無風なら長時間……。

 が、それもまた馴染み。

 忌々しい馴染みではあるが……。

 空気感の違いは消えずに残る。

 春も近い冬だが、ねっとりとしている。

 喩えてみれば何だろう。

 巨大な動物の腹の中にいるような感覚か。

 そういった感じのねっとり感。

 覗けば、川の水もサラサラではない。

 雷雨後の川のように土色に濁っているのではない。

 澄んだ川面には近くの家や枯れ木が映る。

 表面が漣立てば、家や枯れ木が揺れ、千切れる。

 それは同じ。

 が、どこか、ねっとりとしているのだ。

 漣の立ち方にも態と常態を真似ているような違和感がある。

 常識的に考えれば、ぼくの神経がささくれ立っている……となるだろうが、頚椎に痛みはない。

 つまり熱はないのだ。

 ぼくだけの感じ方かもしれないが、ぼくは微熱が出ると頚椎が痛くなる。

 以前歯痛のついでに成形外科でレントゲン写真を撮ったが、医者は骨に異常はないと言う。

 すなわち写真には写らない程度の不具合だが、ぼくには痛みが気のせいとは思えない。

 実際、そんなときは我慢をせず、すぐに解熱剤を飲む。

 飲めば暫くして痛みは消える。

 同時に額の上辺りがムズムズする邪魔っけな感覚も消え、常態に戻る。

 体調が悪ければ薬が切れると同時に頚椎の痛みと額上のムズムズ感が蘇る。

 気分の悪さが酷くなる。

 そんなときは解熱剤を更に飲む。

 後に腹を毀すと知りながら……。

 冬場は体重が増えるせいか発熱度合いの少ないぼくだが、痩せている夏には多くなる。

 その夏に水分補給に失敗すると下痢をする。

 通常とは逆の意味の補給失敗。

 そんなときは手で腹を押さえながら、つくづく丈夫な身体ではないと思う。

 もちろん明らかな病人とは比べようもないが……。

 川から離れ、小学校がある小路に曲がる。

 いつもは見かけない顔が近づいてくる。

 月に数度は会うので顔は覚えているが、それは向こうも同じかもしれない。

 数十秒後、何事も起こらず擦れ違う。

 やがて小学校を右手側に見る。

 一段高い坂の上に小学校が建つ。

 より道側には給食室。

 学校によってはセンターから配送される給食を配膳するだけの所もあるが、その小学校は違うようだ。

 前に調べたことがあるが、学校に給食室がある方を自校調理方式、学校とは別の場所に給食室がある方を給食センター方式と呼ぶ。

 自校調理方式の場合、給食室は学校の敷地内、道路に面した一階にある。

 何故かと言えば、給食物資(食材)の納品が毎日だから……。

 業者が配送車から前室と呼ばれる給食室内の一室に物資を運び易い造りにするためだ。

 ぼくは朝が早いので小学校にはまだ児童がいない。

 が、稀に教師と給食業者の車を見かける。

 教師は用事で、給食業者の車は道路の込み具合で時間がずれるのだろう。

 そう勝手に理解している。

 小学校を過ぎ、角のドラッグストアを右折し、青信号を渡る。

 そこで信号待ち。

 つまり、それまでのぼくの進行方向に対し、左九十度に道路を横断したいのだ。

 ぼくが降車駅から歩く速度と信号のタイミングが合わないので、毎朝必ず、この場所で信号待ちをする。

 すべてではないが信号無視をする車に苛々する。

 信号が切り替わるタイミングにもよるが、十字路の隣の信号が黄色なら、大抵の車が止まらない。

 結果的に、ぼくが待つ信号を青(車の進行方法では赤)で行き過ぎる。

 偶々パトカーが近くにいる日には黄色でも止まる。

 パトカーがいない今朝は商用車一台が信号無視。

 ぼくの気分が少し悪くなるが煙草よりはマシなのは、ぼくが煙嫌いだからか……。

 そう思いつつ、信号を渡ろうとすると道が歪む。

 急な眩暈だと判断し、電信柱に手を付き、取り敢えず青信号を遣り過ごす。

 が、同じ眩暈は訪れない。

 それで、今のは何だったか、と首を捻る。

 当然のように答はない。

 疑問だけが脳裡で渦を巻く。

 まだ二度目の信号待ちが続いている状態なので何気なく左右を見ると、左手側に黒服の女が歩いている。

 トップはダッフルコートでボトムはジーンズ。

 髪は黒く、靴は低いヒールのブーツ。

 手袋も黒いので顔以外がすべて黒。

 そんな格好の背の高い女が、ぼくの方に近づいてくる。


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