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神選組異聞録  作者: ぱったりくん
第一章
8/12

6

 それも一瞬。剣崎の瞳が一際大きく揺らめいた。間髪入れず、交差する刀を通じて柄へと冷気が迸る。


「くっ!」


 静電気が弾けるような痛みが走った。鍔迫り合いの際の押す力を反動として、空也は大きく飛び退る。


 ──鏡心凍明流序之型参式<凍蝶>。


 刀と刀が接触した瞬間、局所的に冷気を流す型だ。下手すれば柄に手の皮がくっつき兼ねない。凍傷など利き手の負傷は剣士にとって致命傷に為り兼ねない。


 体勢を整える暇もない。すかさず周りの温度が急激に下がって行き、


「!?」


 空也の睫毛が凍り、吐く息も白く変わった。


「いやァァァ!」


 間髪入れず剣崎は裂帛の気合いを上げた。<波凍はとう>を放つ。凍てつく波動が迸った!


「っ!」


 有木は真横に跳躍した。飛び散った汗が一瞬で凍り付いて砕け散る。


(くそっ!なんて凍気だ!厄介過ぎる)


 離れれば直ぐ様、《波凍》の剣技が遅いかかる。間合いを制されるのは、剣士にとって制空権を握られるのも同然だ。


(兎に角止まっては駄目だ)


 素早く体勢を整えながら、空也は死角へするすると移動した。剣崎が目で追い、切っ先を向けると再び死角へ。そしてまた死角へと。


 ──桜炎舞刀流歩法<桜流し>。  


 正眼に構え、切先を向ける剣崎を中心にして、反時計回りに円を描き始めた。渦が回転しながら、中心に向かうように、徐々に距離が、縮まって行く。


 その輪が小さくなるにつれ、緊張感が高まって行き──


✿✿✿


 試合が見渡せる二階席では、ダンダラ模様が入った黒い羽織に黒袴を履いた影があった。


「──どちらが勝つか、賭けませんか?」


 不意に影の背後から声が響いた。流れるように、影は動く。左手で鞘を後方に引きながら、振り向き様、攘異刀を抜き放った。


 一瞬で、声の主──男の喉元にピタリと突き付ける。刀の刃紋が波打つように、反射し、影を人型に切り取った。


「なんだ、お前か」


 女は興味を失くしたように、呟いた。声の主はダンダラ模様が入った白の羽織に白袴を着ていた。


「これはこれはご挨拶ですね。同じ職場仲間でしょうに。剣凪麗羅けんなぎれいら様」


 喉元に刃を突きつけられているのに、男の口調は平坦だった。


「黙れ、白鴉め」


 女──麗羅は斬りつけるように、言葉を鋭く放った。


 本部及び作戦本部<智>情報課所属の八咫烏衆。神選組隊士の動向調査や情報探索いわゆる密偵方スカウトの任についている。その任務特に隊士の動向調査から隊でも嫌われ者、それが通称<白鴉>だ。


「まあまあ。そう殺気立たずに。私は次期隊士候補のスカウトに来ただけなんですから」


 総務中隊<礼>と連動して行う有望新人のスカウトも密偵方スカウトの仕事の一つだ。


「ふん、八剣士衆が一角、剣崎家の武姫か……確かに末恐ろしいな。チャクラの開眼も既に第四段階だ。臨界領域クリティカルゾーン習得もままならない空也に勝ち目はあるまい」


「おっと、これでは賭けが成立しませんな」


「誰が剣崎に賭けると言った?」


「ほう、外部試剣生の有木空也に賭けると?彼らは剣究院生と違い、臨界領域クリティカルゾーンのなんたるかも知らないのに?」 


「チャクラは開眼しかけているさ。臨界領域クリティカルゾーンの感覚は、臨死体験に近い。死にかける程の訓練など日常茶飯事。この私が、自ら叩き込んでやったのだ。開眼するさ」


「成程。しかし、チャクラが開眼して臨界領域クリティカルゾーンを習得しても相手は、既に第四段階。勝てるとは思えませんが」


「そうだな。勝ち目はない、だからこそだ。だって面白くないだろ?強いやつが勝つなんて当たり前過ぎる。私はいつだって大穴狙いなのさ」


「成る程。貴方はそういう人でしたね」


 白鴉はさも可笑しそうに喉を鳴らして笑った。


 笑いが収まらぬ内に、麗羅の顔にはっと何かに気付いたような色が指す。


「──お前、私を呼びに来たな」


「ええ、実はそうなんです。スカウトのついでに、貴方を捕まえて来いと言われてまして」


 いけしゃあしゃあと白鴉は眉一つ動かさず、答えた。


「どこだ?」


「とりあえず本部まで」


 短く問うと、返事と共に踵を返した。どうやら何か用事が出来たようだ。


「残念です。賭けが成立する前で。因みに何を賭けるつもりだったんです?」


 去り行くの背中へ白鴉が言葉を投げる。


「ふん、命さ。いつだって私は命を賭ける」


「それは怖い。怖い。私まで命を賭けねばならないところでした」


「後、忘れるな。次の天位会議では、必ずお前を──」


 ──斬る。


 そう言葉を残して去って行った。


「本当に怖い方だ」


 白鴉は大仰に肩を竦めた。白鴉は立ち去った方向を見遣る。


「さて、どうなることやら……」


 そう呟いて、唇の端を僅かに持ち上げた。

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