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「……」
踏み込んだ途端、一切の音が途絶えた。周りの景色も消え去り、まるで世界に二人だけしかいないようだ。
刹那。
静寂を破り、ゆらりと剣崎が動いた。瞳に雪の結晶<❅>が浮かび上がる。<❅>は万華鏡のように回転を始めた。回転に合わせてゆらり、ゆらりと次々と残像が重なり──
──鏡心凍明流序之型壱式<波凍>
流れるように、剣崎は逆袈裟に斬り上げた。即座に手首をくるりと回す。軌跡をなぞるように、左袈裟に振り下ろした。
銀光の軌跡が、上下に重なり、ほんの僅かにずれた。かと思うと、振れながら、波打つように、空間が揺らめく。どっと冷気が流れ込み、魂核融合炉出力いわゆる神威の空間的な振動に乗って、爆発的に広がって行く。
「っ!」
冷気の波濤に空也は腕で顔を庇った。無意識のうちに下がろうとして──
硬直した。蛇のように、足元から冷気が忍び寄り、まとわりつきながら、みるみる氷晶の華を咲かせる。
「くっ!」
足が痺れ、疼くような感覚に思わず苦悶の声を上げた。逃げようにも動けない。瞬く間に息が白く変わる。唇が紫に変色し、ガタガタと歯の根が合わない。
このままでは凍傷になってしまうだろう。
靈力補助を足に更に集中。張り付いた霜や氷晶をバラバラと引き剥がす。空也は辛うじて動いた。
その瞬間、剣崎も動いた。再びゆらり、ゆらりと揺らめき──
──鏡心凍明流歩法<転歩>。
一際、大きく振れる!