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「第二剣限解放──<限定解刀>」
剣崎の言葉に攘異刀の<御珠>が、瞬いた。三重に圧宿魂封処理を施された魂核融合炉の第二封印剣限を解除。稼働を開始する。
神の御魂と剣崎の靈魂との魂核融合により、神の持つ権威の力いわゆる神威が発生した。高エネルギー化した氣が、幽体の経絡氣脈網と肉体の神経回路網を繋ぐ靈源へ流れた。いわゆるチャクラが回転し始め──
《──魂動変速機構起動》
《──変速操作:第肆速靈源》
ギアを変えるように、チャクラの回転速度が段階的に上がり、
《──超臨界緑乃領域到達:自然操作能力解放》
神威は緑の氣光(幽体の放射光)を放射した。自然操作能力が解放される。
臨界とは、物質とは性質が異なる界相として、氣の界相や精神の界相へ存在状態が界相転移することだ。空間ごと存在状態が変化した領域を臨界領域と呼ぶ。亜臨界領域、超臨界領域、超々臨界領域(先進超々臨界領域)があり、この領域に到達した者は、七つの剣能を授かるという。
(なんだ……剣崎の体が赤みがかった何かを纏ったと思ったら)
(橙から黄色そして緑へ色を変えながら、どんどん広がって……)
空也は剣崎の一挙手一投足を見逃すまいと目を皿のようにした。剣崎を中心にゆらゆらと超臨界領域は揺蕩いながら、
(俺はこれを知ってる……)
(そうだ、あれは……)
考え込む空也をよそに、不意に超臨界領域が、爆発的に膨れ上がった。炎に火精を投じたように、一瞬で空也に迫る。
「っ!」
本能の命ずるまま、飛び退いていた。無意識の反応だ。大きく間合いを取りながら、正眼に構える。
──桜炎舞刀流<一本桜の構え>
空也はその状態から左拳を臍前から、水月や胸辺りまで上げた。敵には切っ先の一点が見える構えだ。
「成程、貴方私のゾーンが見えてるのね」
剣崎は面白がる風に口角を上げた。
「──ゾーン?」
「ゾーンってあれか?超集中状態とかなんとか」
「──」
剣崎は無言で応じた。答える義理はないと言わんばかりだ。だらりと攘異刀を下げたまま、空也に迫る。悠揚迫らぬ足取りだ。
「ちっ!」
空也は舌打ちを漏らした。波打ち際の波のように、剣崎に合わせて超臨界領域が空也の間合いを侵食する。
(──あれに入ったらやられる)
本能に従い、下がり続けた。とうとう競技線のギリギリまで追い詰められる。
剣崎の間合いは現在、約七メートル程だ。遠隔攻撃手段がない以上、踏み込むしかない。
(覚悟を決めろ!)
空也の瞳がギラリと光った。攘異刀と共命し、靈力補助による身体強化を足に集中する。
緊張からやたら喉が乾いた。加速する鼓動に合わせて──
「──破っ!」
踏み込んだその刹那、
「──眠れ、凍幻鏡」
剣崎は歌うように告げた。