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神選組異聞録  作者: ぱったりくん
第一章
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1

「──貴方は落ちるわ。私が勝つもの」


 余命を告げる医師のように、少女は厳かに宣告した。凍てつくような冷たい声音だった。


「なん…だと…この俺が落ちるだと……」


 俺こと有木空也は驚愕に目を剥いた。ワナワナと唇を震わせながら、少女から目が離せない。


 美しい少女だ。勝ち気そうな眉、切れ長の瞳、あどけなさを残したふっくらした唇にすっと通った鼻筋、そして病的なまでの青白い肌。日乃国人形のように、濡羽色の前髪を切り揃えている。重量感・重厚感がある藍の道着と綿袴を着ていた。


「てめえ、心理戦のつもり──」


 空也は食ってかかろうとしたが、


「──君達、私語は慎みなさい。礼!」


 遮るように、注意した後、主審が号令した。空也は慌てて立礼の位置で、礼を行う。合わせて少女も礼を行った。


「喚装!」


 間髪入れず、主審が再び号令する。両者は利き腕を突き出した。利き腕の手に視線が集中する。燐光が掌を包んだ。数字と真権しんごん文字の羅列が螺旋状に取り巻いて行く。 


 異相転移空間(靈魂エネルギーは不滅とする、靈魂不滅原理に基づき、肉体の物界相マテリアル・プレーン・フェイズは、幽界相エーテル・プレーン・フェイズ星界相アストラル・プレーン・フェイズそして概界相イデアル・プレーン・フェイズ)相転移フェイズ・シフトしながら、重なり存在するが、この界相の異なる空間)の異相次元データを念じ投射するいわゆる念射サイキック・プロジェクトを行っているのだ。質料ヒュレーとして、氣素マナ靈氣粘性流体エクトプラズムなどの幽機物エセリアル・マターをエーテル状態からマテリアル状態へ転換させ、積み重ねることで、物質造形化マテリアライズさせる、それが喚装術だ。


 思念エネルギーで元の形相情報エイドスの形に戻る精神感応型形相記憶合金<日緋色金ヒヒイロカネ>製の刀──攘異刀が両者の手に喚装された。攘異刀を空中線アンテナとして、高周波靈力が、肉体に供給される。靈力補助による身体強化、<共命>、<共神>と呼ばれる喚装の副次効果だ。


 攘異刀とは盟神太刀くがたち概装オルガノン念物サイキック・オブジェクトと様々な名前で呼ばれる対界異魂核喚装武器だ。地圏アースフィア世界の島国、神州八島日乃国を統べる天能皇家を尊び、世界の理から外れた界異バグノードを討つ尊能攘異運動に由来する。


 それは唐突に現れた。魂の核を超高密度に圧縮し、人間の魂を分裂・壊変する魂核分裂生体兵器<界異バグノード>により、世界は放炙能汚染され、終末がもたらされた。放炙能汚染いわゆる瘴氣を浴び、魂源情報イデアなど概念が変異した禍異物ヴァリアントや異狄(人型の禍異物ヴァリアント)に対し、現代兵器は無力だった。神州八島ひいては人類滅亡の危機に、日乃国天能皇家に連なる神具夜姫は、魂約結能儀式により、神々との魂核融合を行い、結能品ギフトとして、神威の力を持つ神剣八刀の神打と百本の影打を授けられた。魂睡状態に陥った神具夜姫に代わり、征異大将軍を総大将とする征異刀伐軍が結成され、界異バグノードや異狄を打ち滅ぼすべく、攘異戦争が勃発。彼ら攘異志士達は、征異大将軍府管轄下の刀伐執行剣兵部隊<神選組>に集められ、刃を振るった。


 二度に渡る攘異戦争後、日乃国では、帯刀令により、国民には適性剣査、技能剣定、学科試剣の三つの試剣が課せられ、合格者には、刀伐免許の取得が、義務付けられている。刀伐免許の交付、試剣や更新、申請など免許に係る手続や刀伐士ブレイダーの育成は、日乃刀伐連盟が担っていた。


 天京都千刃谷区にあるその日乃刀伐連盟天京本部にて。試剣会場である第一剣修場は水を打ったように、静まり返っていた。多くの受剣生が固唾を呑んで見守っている。


 試剣会場の外では桜がはらはらと舞っていた。美しくも儚い桜の季節──あの日から丁度七年後。この日、十七歳の空也は、専業プロ刀伐士ブレイダー目指し、春季刀伐免許試剣に臨んでいるのだ。


 春季刀伐免許試剣は、四月から五月のニヶ月かけて、外部から受剣する外部生と日乃刀伐連盟の下部組織である剣究院所属の院生(剣究生)合同で行われる。序列上位数名が専業プロ刀伐士ブレイダーになれる狭き門だ。空也は外部生として、予選を勝ち抜き、最も専業プロ刀伐士ブレイダーに近い院生(剣究生)の松級の序列一位、剣崎涼音と対峙していた。


 帯刀した両者は、三歩進む。開始線で攘異刀を抜き合わせた。そのまま蹲踞する。攘異刀の刀身が仄かに輝き、空也の二重瞼の黒瞳が刀身に映った。


(攘異刀は己を映す鏡……か)


 ふとあの人の言葉が心に浮かながら、緊張した面持ちを見返す。


 目鼻立ちはそれなりに整ってはいた。丸坊主が伸びたままという感じの黒髪。野性味溢れる雰囲気を醸し出している。外部受剣生を示す白袴に白道着が悪目立ちしていた。


「始め!」


 主審が高らかに試合の開始を告げた。

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