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 生物は現在、危機に陥っていた。フユはここで休憩をしようと言っていたが、生物の目には休憩できるような場所は写っていなかった。錆び臭い鉄に積もった硬い雪。鉄骨に絡みついた植物には棘が見られ、所々に真紅の花が咲いていた。棘のない植物に身体をぐるぐる巻きにされたまま、奥へ奥へと引っ張られていく。見た目通り力のない生物は抵抗すらも許されず、ついに外と同じくらいの気温の場所へと辿り着いた。

「フユさま……と一緒に来たのはあなたなの?」

「ア…ハイ…」

 こくりと、小さく頷いた生物に気温はさらに低下していく。生物に絡む植物が少し緩み視界に光が差す。生物の目の前に水色をベースとした広いベットが見えた。そのベットには、露出度の高い服を着た白髪ボブの女がちょこんと座っていた。

「フユさまと、おでかけ…するの?」

「ハイ」

「おで、かけ」

 生物を絡む植物が凍ってゆく。ぴしり、ぴしりと音を立ててついにヒビが入っていく。生物の耳にはもうひとつ音が聞こえた。

「…き、も……たり、で…ない、…に」

 ポタポタと、ベットのシーツの色が濃くなる。

「ふぶきでも!2人きりでおでかけしたことないのにぃ!!」

 うわああぁん、と子供のように泣き続ける女。見た目から想像できる年齢は10代後半か20代前半と見られる。大きな枕に抱きついて声を上げて泣く。次第に濡れた枕までもがぴしりと音を立てた頃、生物の目の前で声を上げる少女は10代かどうかも怪しいほどの容姿に変わってしまっていた。

「ふゆさまぁ、ふゆさまぁ!!やあああああぁぁ!!」

 悲鳴に近いそれに、生物はたじろぐ。キョロキョロと不安そうに辺りを見回した後に「よいしょ」と呟いてベットによじ登った。

「フユ、おまえに、あいたい、いってた。なかないで」

 ついにフブキと思われる少女の抱く枕まで登り切ったところで、優しくフユがしてくれたように頭を撫でた。少女は一瞬バッと顔を上げて心配そうな顔をする生物を見た途端、また目をうるうるさせて大声を上げた。憎いであろう生物を大切なぬいぐるみにする様に頬を擦り寄せて。

「うううぅ、ぐず、…ごめ、ね」

 凍った枕が段々と溶けていく。気温がゆるゆると戻っていく。生物は少女を優しく撫で、少女は生物に縋りついて涙を流す。生物は、少女が泣き止むまでそばにいることにするらしかった。


 フユが冷気を纏った廃工場の中を走り回ってようやくフブキという少女のいる部屋に辿り着いたとき、水色をベースとしたベットに、ふたつの小さな影がひっついて眠っていたという。

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