82 星泉の同行者
「すみませんね。僕、彼女の連れなんです」
私の前後に並んでいる人たちにそう断りを入れて列に割り込んできた青年を呆然と見ていた。
「何で私のなま……んぐ」
「何で私の名前を知ってるの?」と聞きたかったけど、途中で口を押さえられ言葉を呑み込んだ。
「何で君の飼っていたナマズを池に逃がしたかって? ごめん、あれは事故だったんだ。手が滑ってしまっただけなんだ。決してわざとじゃないんだ。飼育が大変だからとか思ってないよ?」
適当な事を言いながら見事にそれっぽい笑顔を向けてくる。凄く胡散臭い人だなぁ。怪しみを込めた目付きで睨んだ。
過去にどこかで知り合った人かな? 全然記憶にない。きっとこの列に割り込みたかったから知人なのを利用して声を掛けてきたのかも。
青年の手が口から離れた。険しい視線を返したけど明後日の方向へ目を逸らされた。彼は当然のように私のすぐ後ろに並んだ。
そうこうしている内に門を通る順番が巡ってきた。この星域を出るのは久しぶりだったので少しわくわくしていた。
門の前へ進んだ。足を踏み出す。行き先を言おうと口を開いた。
「グレオム」
ハッとして左隣を見た。行き先を口にしたのは私じゃなくて……今し方まで後方にいた筈の青年だった。
彼はいつの間にか私と一緒に門の下へ足を踏み入れていて、私が言うつもりだった行き先とは違う行き先を告げた。
困惑している内に星泉の辺へ移行していた。夜のように暗い空間に泉が足元から遠くへ続いている。下草を踏み締め桟橋へ歩く。煌めく無数の星影を背景にして水面に小舟が浮いている。小舟は木製だけど頑丈そうに見える。
さっそく乗り込んだ。
「悪いね。同行させてもらうよ、エスティ」
青年が私の後ろを付いてきているのは知っていた。了承も得ず勝手に舟に乗ってくる。澄ました顔で私の向かいに足を組んで座っている。舟の縁に肘をつき手の甲に頬を預ける何ともリラックスした姿勢でこちらを眺めてくる。
「グレオムに行くんじゃなかったんですか」
思い切り怪しんでいる目付きで尋ねた。
グレオムとは中星域の一つで、感覚的には今私たちのいる星域セヴィアラの左隣にある星域とされている。セヴィアラも中星域の分類で、この大星域にはほかにもあと三つの中星域が存在している。
私の目的地はこの大星域の中心に位置する特別な星域……「中央世界」「中央」とも呼ばれる中星域リウラだった。リウラは周囲に「円環」と称される光源を有しており、リウラを取り巻くように在る四つの星域にも光の恩恵をもたらしている。
リウラは星都……言わば星域内で一番大きくて中心的な星……と円環までの間に七つの小星域を有しており、その内の一つに「ワズ」があった。
そこへ行くつもりだ。中央には知り合いがいる。その人が手助けしてくれるかもしれないし。
青年の切れ長の目がにんまり細くなった。事も無げに言ってくる。
「フェイクだよ。追われていてね。騒がずいてくれて助かったよ。おかげで奴らと戦闘にならず済んだ。人質の役を果たしてくれてありがとう」
何を考えているのか分からない酷く落ち着いた笑みを向けられた。
お久しぶりです! いつもお読みいただき応援も色々ありがとうございます。
「やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~」82話目を投稿しました! 長くお休みしていて申し訳ありません。ゆっくりほかの小説を書いていました。
この小説「やり直しの人生では~」は、何事もなければ来月くらいまで火曜と土曜に更新しようと目論んでいます。
もし順調に捗れば「ダブルラヴァーズ ~私の中に悪役令嬢めいた人格が爆誕していました。眼鏡を掛けると入れ替わっていじめっ子を懲らしめてくれます。それぞれ好きな人ができました。ちょっと待って体は一人なんですが~」の更新も後で行うかもしれません。
~作者近況(薄ら宣伝)~
最近アルファポリスの「青春小説×ボカロPカップ」に参加しています。
よろしくお願いします。




