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75 言の葉に乗せて


 龍君が黙ってしまった。俯いている彼の頭をゆっくりした手付きで撫でた。細くて柔らかい髪質だ。


 唐突に撫でていた右手を掴まれた。



「僕に優しくしないで」



 彼の物言いは乱暴だったけど、その眼差しは悲しみに支配されているようにも見える。


「また勘違いしちゃうよ? ……本当は分かってた。一度目の人生で由利花ちゃんに告白したって叶いっこなかったって。未神石の力がなかったら二度目の人生でもきっとダメだった。今の人生で由利花ちゃんが僕の事を好きだって言ってくれたのも、二度目の人生で僕たちが結婚してたからでしょう? だからきっと、それは本当の気持ちじゃない」


 龍君の言葉に「そうなのかなぁ?」と首をひねった。


 困ったなぁ。龍君が何か拗れている? 私の言葉が足りないせいかもしれない。さっきも自分の気持ちを口にした時、説明不足だった気がする。人間はやっぱり言葉を尽くして伝えないと分からない事もある。もう志崎君の時みたいに失くしてしまわないように、大切にしたい。



「私はね、龍君。一度目も二度目も三度目のこの人生も、繋がった一つの人生だと思ってるところがあって。ええっと、何て説明したらいいのかなぁ」


 視線を右横に彷徨わせて言葉を見つけようとした。


「本当のところはそうじゃないのかもしれないけど。でもね。二度目の人生で龍君に想いを伝えてもらったの、嬉しかったよ。確かに志崎君や透の事も好きだったけど、今は一番、龍君の事が好きだよ。大好きなの」


 言い切って見上げると、見開かれた瞳と目が合った。一瞬怯んだけど言葉を続けた。


「二度目の人生では私、ちゃんと龍君に好きだって伝えた事あったっけ? ごめんね。うまく言えなくて。……一緒にいる程、歳を重ねる程、好きな気持ちが増していった。三度目のこの人生ではちゃんと伝えられたと思ってたんだけど、まだ足りなかったね。でも、そっかぁ。未神石の力で私と龍君は想いが通じたんだね」


 私が笑うと龍君は目を瞠ったまま小さく呟いた。



「君は志崎が好きだった。透君と結婚していた。……本当の僕を知って失望したって言った」


「あ。やっぱり誤解させちゃってたよね、ごめん」



 少し慌てた私は早口になる。


「さっき失望したって言ったのは龍君にじゃないよ。私の人望のなさに失望したんだよ。まぁ、自業自得かぁ。私が気持ちをフラフラさせてたから」


 へへっと笑って見せた。私の右手を握っていた龍君の左手を両手で包む。




「十八歳になったら、私と結婚して下さい」




 意を決して紡いだ言葉。彼にちゃんと伝わっただろうか?

 一つ息をついて龍君の顔を窺った。今まで以上に大きく開かれた目が細められる。




「うん……、うん」




 そう言って龍君は下を向いた。泣き顔を見られたくなかったのかもしれない。

 爪先で立って、彼の額にキスした。こっちを見てくれたので提案する。



「帰ろう?」



 安心してほしくて微笑みかけた。


 私の左手にあった筈の未神石がいつの間にか消えている。『響き』の主の気配もなくなったように思う。もしかしたら私たちの話が長くてさっさとどこかへ帰ったのかもしれない。そう思考して苦笑いした。



 龍君の手を引っ張ろうとした。しかし……。


「僕は償わなくちゃならない。勇輝に顔向けできない」


 俯いて尚も動こうとしない龍君に、私はハッキリした声で告げた。



「勇輝からの伝言があるの」



更新が遅くてすみません。


ブックマークが増えていました! ありがとうございます。増えたり減ったりで一喜一憂するタイプです。



追記 2022.9.30


「もしかして」を「もしかしたら」に修正しました。

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