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 時間や運命、寿命までも操れるの?


 得体の知れない『響き』の存在に怖気づいていたけれど、私がやらなきゃいけない事は分かっている。

 『響き』の主がいそうな岩場の上の空間を見つめた。



「『キャンセル』」



 手に持っていた未神石を両手で握ったまま突き出した。



「私たちはキャンセルでお願いします」



 透に手紙で教えてもらった文言と動作で意思表示した。

 何で透はこうなる事分かってたんだろう。でも、彼が伝えたかったのはこの事だったんだと心の中で何度も感謝した。



 少し離れた岩場に、波が激しく打ち付けて音を鳴らす。それはさっき下って来た階段の側に広がる茂み……そこから聞こえる虫の音を掻き消す程に大きく。



 やがてひと時の静まりが訪れた。



 『響き』が先程より低めの声色を発した。背筋がゾクッとする。






「『マスター』だね?」






 問われた事がよく分からず、つい「『マスター』って何の事ですか?」と聞いた。



「『マスター』については『マスター』に聞いてよ。君にその『コマンド』を教えたのは十中八九『マスター』だと思うから。おっと。規約に抵触するかな?」



 『響き』はそう教えてくれたけど、語尾の方は呟きになったようで聞き取り難い。


 『コマンド』が『キャンセル』の事だとしたら、それを教えてくれた透は『マスター』って事になる?


 私はその事に気を取られていたので、この後陥った事態に大いに泡を食った。



 私の向いている方向を少し上目遣いに睨んだ龍君は、まるで独り言を口にするように静かに、しかしはっきりと宣言した。



「僕はキャンセルしない」



「えっ」


「ほう?」


 私が驚いて声を上げるのと興味を持ったように感嘆めいた『響き』が聞こえたのは、ほぼ同時だった。



「君の願いとは?」


 面白がるような口調で『響き』が問う。


「龍君、だめっ……!」


「……その前に。僕の願いは次の人生じゃなくて今の人生で叶えてほしいんだけど、できる?」


「うーん?」


 龍君の質問に、考えている風に唸る『響き』。


「たまにそう言ってくる奴、いるんだよなぁ。例外は基本認めないんだけど、そうだなぁ。その場合、今の生が短くなるけどいいんだな?」


「構わない」


「何言ってるの?」


 もう答えは決まっていると言わんばかりに返事する龍君を睨んだ。



「まあまあ。取り敢えず願いを聞いてみて、矛盾がなければ叶えてもいい。別に『キャンセル』でもどちらでもいいんだけど、本人の意志も大事だし」


 『響き』に宥められたけど、その落ち着いた口調が逆に私の怒りを増幅させる。



「……恨むから」


 透が折角教えてくれた『呪いの解き方』だけど、龍君がそれを拒んだ。無力感に苛まれながら龍君を強く睨み続ける。



「由利花ちゃん」


 龍君が私を見て微笑した。


「泣かないで。僕は大丈夫だから」


 彼は左手で私の頭を撫でた後、『響き』へと言った。


「僕の願いは……」


お読み頂き、日頃より色々とありがとうございます。


UPがとても遅くなり、二日に一回の投稿になりそうとか書いていたのに結局守れず申し訳ありません。これからの投稿も一番最初に書いていた通り、不定期になると思います。何卒よろしくお願いします。


追記2024.8.29

「が訪れた」を追加しました。

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