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67 水族館


 バスで向かう修学旅行先は別の県のとある半島。

 遺跡や小さな古墳が点在しており、近年の発掘調査で出土した大きな『未神石みこうせき』が有名だ。


 『未神石』……そう呼ばれているのは、この地方の海や川等でたまに見かける苔が生えたような色をした石の事。『願いを叶えてくれる石』『神様が宿る石』『粗末に扱うと祟りがある』等という言い伝えもある。最近では謎の多いその石に注目が集まり、テレビの特集番組でコメンテーターが「宇宙人が戯れにばら撒いたのでは」なんて喋っていた。それくらい神秘的で不思議な石なのだ。



 ……あれも緑色の石だよね?


 透の手紙にあった石についての記述。あれはもしかして『未神石』の事?



 高速道路を進むバスの車内。バスガイドさんの話を聞きながら空いている左手で自分の顎を押さえて考える。右手は今も龍君と繋がれている。

 バスガイドのお姉さんは熱心な口調でこれから行く半島にまつわる伝説を分かり易く説明してくれている。


 あれ? そういえば私、一度目の人生で……?




 何か思い出しかけた時、龍君の頭が私の右肩に重みを伴いくっついてきた。


「りゅっ、龍君?」


 見ると彼は目を閉じていて、微かに規則的な呼吸音が聞こえる。


「寝てる?」


 小声で尋ねてみたけど返事はない。


 よく見ると彼の目の下には薄ら隈がある。修学旅行が楽しみで眠れなかったのかな? 一瞬そう思ったけど何となく違う気がする。龍君は心配事がある時、独り抱え込んでしまう癖があるように思う。私の考え過ぎだといいんだけど……。




 しばらく経って高速道路途中にあるサービスエリアでトイレ休憩となった。多くのクラスメイトたちがぞろぞろバスを降りて行く。


 龍君はまだ寝てる。起こすのがかわいそうだけどトイレ休憩なのを教えた方がいいのか逡巡しているところへ、後ろの座席から咲月ちゃんの声がした。



「ひゃーもう、信じられない! 近い! 同じ空気吸ってる!」



 咲月ちゃんの隣に座っていた沢野君がバスを降りたので、咲月ちゃんの秘められた熱い心の声が噴出したようだった。


「うー。緊張して何も話せなかった……! ねぇ、由利花ちゃん」


 背もたれの上から顔を出した咲月ちゃんと視線を合わせようと、私はゆっくり首を後方へ向けた。あまり動くと私に寄り掛かって眠る龍君を起こしてしまいそうだったから。


「わぁ……ごめん。邪魔したね」


 私と龍君の様子を見た咲月ちゃんは、そう言って顔を引っ込めた。






 今回の目的地の一つに到着した。この地方でも指折りの大きな水族館。


 大きな水槽、泳ぐ魚たち。多彩な海洋生物の展示。

 生き生きと瞳を輝かせてそれらを見て回る班の子たちを眺めながら奥へと進む。


 クラゲが光りながら頭上を泳いで行く。



「綺麗だね」


 後方を歩いている龍君を振り返って話しかけた。

 俯いて歩いていた彼は、私の声に顔を上げて微笑んだ。


「そうだね」



 ? ……龍君、やっぱりちょっと様子が変?



 龍君の違和感に気を取られていて、咲月ちゃんたち……同じ班の子を見失った。



「早く追いつかないと」


 私がそう言うと龍君は笑った。


「大丈夫だよ。ゆっくり行こう」


 彼に右手を引かれた。




 龍君と二人、順路を辿った。




 ある所で照明が暗めの部屋に入った。大きなスクリーンに宇宙から見た地球や、生物や海といった映像が流されている。


 龍君が足を止めた。




「龍君?」


 私も立ち止まってスクリーンを見た。


 漆黒に浮かぶ地球の青。




「……――」




 ひと時の間無言だった彼は再び歩き出した。


「行こう。そろそろ皆に追いつくんじゃないかな?」


 振り向いて笑う龍君。いつも通りの笑顔。

 けれど私は一抹の不安を感じた。それが何故なのかよく分からなかった。



長らくお休みして申し訳ありませんでした。休み癖がついてしまったようでなかなか書き出せずにいました。


ブックマークが前回より一件増えていました。ありがとうございます。

お休み中もPVがあり、もしかして楽しみに待っていて下さる読者様がいらっしゃる……? と、とても有難く感じました。

いつもありがとうございます。

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