61 特異な身の上話
「えっ……」
上目遣いに見上げてくる透の視線を一身に受け止めた。それまで頭の中を巡っていた一切の思考が消し飛ぶ感覚。
えっ? 透、本当は憶えてたの? そんな。
「いつから? ……いつから分かってたの?」
問うと彼は眉尻を下げて少し悲しそうに笑った。
「ずっと。一コ前の人生でも、最初から。ごめんね、由利ちゃん。会いに来てくれた時、本当は知ってたのに知らないフリして嘘ついて。もう関わらないつもりだったんだ。ボクは君の願いを知っていたけど、叶える気はなかったから。……でもあの時、君が会いに来てくれて忘れられなくなった。ずっと君を、ボクの『宿命』に巻き込んでしまって心苦しく思ってたけど……。この世界の禁忌を犯したとしても君の望みを叶えればよかった。それは、ボクの望みでもあったのだから」
右に少し首を傾けて、透は笑う。
何でこんなに切ないんだろう。彼の話を聞いていると、私が彼に片想いしていた筈なのにまるで両想いだったみたいに聞こえる。
ずっと透は、私の事が好きじゃないんだと思っていた。一度目の人生でも一定の距離を置かれているような気がしていた。愛が存在するのは感じ取れていたけど、それは家族に対するものに近い気がしていた。彼は他の誰かを想っているのかもしれないと考えた事もあったけど、よく分からなかった。
今、透が打ち明けてくれた話は『宿命』とか『この世界の禁忌』とか理解の追いつかない部分もあるけど妙に納得できた。それは自分も人生を繰り返すという不思議に巻き込まれているから。
彼はこの繰り返しの人生におけるキーパーソンなのだと教えてくれたのだろう。
「まあ、喋れるのはここまでかな」
透はチラリと左方に目を向けた。食い入るような瞳をして話の行方を見守っている咲月ちゃんと、静かに怒っているようにも見える雪絵ちゃん。
「これ以上話すと、ここにいる全員色々ヤバくなるからもうお開きにしよう。ジュースご馳走様。中々懐かしい味だったよ」
透は立ち上がって部屋を出て行こうとしていた。
「透!」
思わずその背中を呼び止めた。どうしても言いたかった事。
「ごめんね! いっぱい傷付けて……ごめんね」
彼は振り返らずに右手を挙げてヒラヒラ振って見せた後、そのまま出て行った。
残った女子たち。
咲月ちゃんと雪絵ちゃんはまだ呆然としているような顔だ。三人で顔を見合わせた。
「すごい……! すごいよ由利花ちゃん! まるでドラマでも見てる気分だったよ! この遊び、台本か何かあるの?」
咲月ちゃんが取り続けていたメモ帳のページはこれでもかと言わんばかりに文字が書き込まれていた。
「笹木さん」
静かな中に燃えるような感情が籠っていそうな、低めで通る声。
私は雪絵ちゃんに睨まれていた。
「こんな重大な事……よく今まで黙っててくれたわね」
彼女が怒っている姿は怖かったけど、私は嬉しくて微笑んでしまう。
雪絵ちゃん、信じてくれたんだ。
「スペクタクルで激しめな話をお願いしたけど、ここまで壮大だとは思わなかったわ。やり過ぎよ。いい? 今から洗いざらい話しなさい。全て話し切るまで、ここから帰らないから!」
鬼のような目付きで睨んでくる。そんな雪絵ちゃんを見て目を丸くしている咲月ちゃん。
それから夕方まで延々と、私は身の上話を続けた。
一度目の人生に始まって、二度目、そして今の人生での話。
話し終わる頃には咲月ちゃんでさえこう言った。
「え? あれっ? それって由利花ちゃんの話だったの? 全部? ……フィクションじゃなくて?」
彼女は雪絵ちゃんに連れられて帰って行ったけど、とても信じられぬであろう話の内容にまだ混乱しているようだった。
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今日も遅くてすみません!
用事があり、今日と明日の分がもしかしたらお休みになるかもしれません。申し訳ありません。




