59 会合
私たちは長方形のローテーブルの向こうとこちらで二人ずつ座って向かい合っている。
先に来ていた雪絵ちゃん、咲月ちゃんには奥の方に座ってもらっていた。手前の左側に透を座らせて、私はその右隣に腰を下ろした。私の前が咲月ちゃんで透の向かい側が雪絵ちゃんという位置関係だ。
「で? で? 今日は一体、何の話をするの? 何だか面白そうな匂いがプンプンするんだけど」
咲月ちゃんが生き生きとして喋り出した。メモ帳とシャープペンをテーブルの上に用意しながら。
「笹木さんが透君に聞きたい事があって、透君がもったいぶって鈴谷君には教えたくないって言ってるのよね? それで何故か代わりに私たちが招集された……。もし話の内容が大した事じゃなかったらここに来た意味がないから、なるべくスペクタクルで激しめなものでお願いね。退屈な話だったら恨むわよ、透君」
透を見る雪絵ちゃんの眼の光り方が怖い。
透は二人を若干仰け反るように眺めてから、苦笑いした顔をこっちに向けた。
「由利ちゃん。ボクも意地悪したのは悪かったけどさぁ、三対一ってあんまりじゃない?」
私は皆のお喋りを聞きながらテーブルに予め用意していた炭酸のジュースをコップに注ぎ分けていた。透の抗議に、こちらも苦笑いで返した。
「だって今、鈴谷君と付き合ってるから。透と二人だけで会ったら鈴谷君が心配するでしょ?」
「ふーん。一応ボクの事、意識はしてるんだ」
「当たり前でしょ?」
一度目の人生で夫だった人だし。嫌いになった訳ではないし。
ふと、私たちのやり取りを見ていたらしい咲月ちゃんと雪絵ちゃんの顔が変な風に歪んでいる事に気付く。
「ど、どうしたの二人とも?」
「由利花ちゃんにそういう趣味があったなんて。こんな小さな子も守備範囲だったなんて」
「犯罪だわ」
わー、すごく変な目で見られてしまった。
一度目の人生で三十代だった頃、四歳差なんてそんなに気にならなかったけど。小学生の四歳差は確かに大きい。実際に私もたまに透の事を自分の息子と重ねて見る事がある。普通だったらあり得なく思えたかも。……でも私たちは普通の関係ではないのだ。
「由利花ちゃん?」
「笹木さん?」
俯いて沈黙していた私に、言い過ぎたと思ったのか咲月ちゃんと雪絵ちゃんが心配そうな声で呼びかけてくれる。自分の体が震えているのが分かった。
「クッ……、クックックッ……」
堪えていた笑いが漏れてしまった。
「やっと……やっと二人に話を聞いてもらえるんだと思ったら、すごく気が楽になったよ! 今まで受け入れてもらえないと思って決心がつかなかったけど、そういう事じゃなかった。私の問題だったんだ」
「由利花ちゃん?」
「笹木さん……頭、大丈夫?」
突然笑い出した私に眉をひそめて本気で心配している様子の二人。
「……透。二人に話せるこの機会を作ってくれて、ありがとうね」
笑って出た涙を指先で拭いながら彼を見る。透は不本意そうに薄く笑った。
「そんなつもりは全然なかったんだけどね。え? 本気で話す気なの?」
少し不安そうに念押ししてくる透に、私は頷いて見せた。吹っ切れた心に従うまでだ。
「でも、何から話せばいいかな?」
どう言えばちゃんと伝わるんだろう。
私がしばし悩んでいると、咲月ちゃんが明るく提案してくれた。
「何を話してくれる気なのか知らないけど、取り敢えずまずは由利花ちゃんの聞きたい事を透んるんに教えてもらったら?」
「あ、そうだね!」
私もその意見に納得して透の方を向く。
「『勇輝の伝言』を教える前に、約束してほしい事があるって言ったよね? ……ちょっと、こんな関係のない人のいる所で言わされるとは思わなかったよ。すごく言いづらいんだけど。本当に勘弁して」
そう訴えて下を向いた透は、恥ずかしそうにモジモジしている。
「はいっ!」
そこへ急に咲月ちゃんが挙手した。
「咲月ちゃん、何でしょう?」
私が尋ねると彼女は「少しも聞き漏らさないよ!」と言いたげにメモを取りつつ、前のめりに質問してきた。
「ゆうきって誰の事ですか?」
私と透は目を丸くして顔を見合わせた。視線を咲月ちゃんに戻す。
「勇輝は私の子供。二度目の人生で鈴谷君との間に生まれてきてくれた……可愛い可愛い、最愛の一人息子だよ」
遅くてすみませんー!




