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53 誕生日


 家に帰ってからタオルで汗を拭いて中の服まで着替えた。暑くて一旦シャワーを浴びたい気分だったけど、この家にシャワーが備わるのは何年か後なのだ。



 タンスの引き出しを開けて自分の顎に手を当てた。うーん。どれを着て行こう?


 左端のオレンジ色が目に留まる。これは袖なしのワンピースだ。膝下までの長さがある。趣味で自分で作ってみたものの中で一番の自信作だ。今まで袖なしのシャツやワンピースやスカートと比較的難しくなさそうなものを選んで作ってみていた。



「変じゃないよね?」


 着てから鏡の前に移動する。


 一度目の人生ではあまりスカートを好んで穿かなかった。自分が太っていると思っていたので足を出すのに抵抗があり、普段着る服はズボンにする事が多かった。大人の頃より子供の時は随分痩せていたのだから気にする事なかったのに、と今になって思う。むしろ他の子より細い。



 でもなぁ。さすがに袖なしは抵抗があるなぁ。心が子供になりきれない。


 あ、そうだ。


 母のタンスから白いカーディガンを借りる事にする。未来で母に譲り受ける予定の物だ。今少し借りたとしても大差ないだろう。もらった時よりも大きめに感じるけど、それが今着ているワンピースに合っている気がする。



 乱れていた髪を結び直して出掛けた。








 龍君の家の側まで来た。辺りを見回すけど透はいなさそう。少し安堵する。


 龍君のお家は二年くらい前に建て替えられていて立派な三階建てだ。それまでは私の住んでいる家のような古い一軒家だった。一階は広めの駐車場になっている。


 インターホンを押すと龍君と優しい龍君のお母さんが出迎えてくれた。



 去年と同じで二階のリビングでケーキを頂くものだと思っていたので、先を歩く龍君が三階へと階段を上って行くのに首を傾げた。


 付いて来ない私に足を止めた龍君が手招きした。


「ケーキ上で食べよ。もう用意してあるから」


「あ……、うん」


 私の横に佇む龍君のお母さんを見る。彼女は階段の上にいる龍君を見て苦笑いしていた。私の視線に気付いて頬に手を当てため息をついている。


「おばさん、のけ者にされちゃった。反抗期なのかもね。色々気難しい子だけど、龍と仲良くしてやってね由利花ちゃん」


 目線を同じ高さに合わせて微笑む龍君のお母さん。長めのウェーブのかかった黒髪を後ろで一つにまとめていて、その相貌は龍君に似ている。間近で見ても美しい。


「はい」


 私はそう答えて「ん?」と二度目の人生との差異に違和感を覚える。


 このシチュエーションは二度目の人生でもあった。けどそれは高校一年生の誕生日だった。そして高一の誕生日といえば……。



 私は二度目の人生で龍君と付き合って初めての自分の誕生日にあった事を思い出した。



 きっと今顔が真っ赤な筈だ。両手で頬をパタパタ扇ぎながら龍君の後を追って階段を上り、彼に続いて部屋へ入った。






 龍君の部屋はカーテンや寝具等が青や灰色で揃えられていて、シンプルでスッキリとした印象だ。


 ここ最近は来てなかったけど、過去何度もお邪魔した事のある見慣れている筈の場所なのに落ち着かない。


 「どうしたの? 座って」と龍君に促されるまでドアの前に突っ立っていた。奥に長い長方形の部屋の真ん中辺りに小さめの丸テーブルがあり、その上にケーキとフォークの載った皿が二つとコップとペットボトルのジュースが用意されていた。


 言われるがままテーブルの下一帯に敷いてあるラグの上に腰を下ろす。



 それから誕生日プレゼントにかわいい星のチャームのついたブレスレットをもらったりイチゴのケーキが美味しかったりととても嬉しい時間を過ごしたんだけど、どうしても二度目の高一だった時の誕生日と重ねて見てしまって龍君と話しているのにぼーっとしてしまった。



「由利花ちゃん、聞いてる?」


 龍君に疑いの目で見られてしまって慌てて手を振った。


「聞いてる、聞いてるよ?」



「嘘ばっかり」



 龍君がテーブル越しに身を乗り出して、彼の親指が私の顎に触れた。



「えっ、いきなり?」


 私は考える暇もなくぎゅっと目を瞑った。



 指が離れる感覚に瞼をそろっと開ける。目の前の龍君はその親指に付いたクリームを舐め取っているところだった。



「顎にクリーム付いてるよって教えてあげたのに……何考えてたの?」



 目を細めて余裕そうに笑む龍君の言葉に再び顔が熱っぽくなる。



「何か期待させたみたいで悪いけど、今日は何もしないからね」


 澄ました顔で彼は言う。



「さっき、昔由利花ちゃんの夫だった透君に釘を刺されたんだ。『由利ちゃんに手出ししたら分かってるよね?』って睨まれた。会うの知ってたみたいだね」



 あ……そうなんだ。ちょっと気が抜けたような少しだけ残念な気持ちになる。



 あれ? これって……私、何か期待してた?

 戸惑っている私に龍君がわざとらしく咳払いして見せる。



「だから僕からは何もできないよね?」



 ……。


 龍君め。調子に乗りおって。お仕置きだ。お仕置きしてやる。



 私は立ち上がって龍君の傍へ寄り、彼の肩をその後ろに置かれたベッドの縁に押さえつけた。


すみません、また日付をまたいでしまいました。


ブックマークがまた増えていました! ありがとうございます!


追記2024.8.29

「くん」を「君」に修正しました。

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