50 尋ね人
「……うん」
私はその言葉を噛み締めるように発した。
「うん、そうだよ」
目線を上げた龍君の瞳をまっすぐ見た。
「私は……龍君の事が好きだよ」
今回は気持ちをちゃんと言い切る事ができたと達成感に浸る暇もないまま、気が付いたら彼の腕の中にいた。
「……ありがとう」
すぐ近い所で彼の聞き慣れた声がする。
隙間なくくっついた部分から私の鼓動の早さが知られてしまいそうで堪らず身じろぎした。
ゆっくり体が離された。泣きそうな顔だった龍君が笑った。
「僕も大好きだよ。今度は絶対に守るから…………僕とずっと一緒にいて」
私も涙目になりながら彼の言葉に黙って頷いた。
私の髪に龍君の手が触れた。その手は私の左頬に下ろされて、少し屈んだ彼の目に急かされるように瞳を伏せた。
その直後、歩道橋が揺れた。驚いて目を開けた私は何者かに引っ張られて後方へ数歩よろめいた。
「お姉さん! ……っ危なかったぁ」
後ろを振り返るとランドセルを背負った小学二、三年生くらいの男の子が両手で私の左手を掴んでいた。この子が走って来たから歩道橋が揺れたのかもしれない。
体型は普通だけど顔……特に頬が少しふっくらしていて愛嬌のある顔立ち。青と白の横縞のTシャツに膝上までの半ズボン。
「やっと会えたぁ」
彼はそう感慨深げに目を輝かせた。
最初、私はこの男の子が誰なのか全く分かっていなかった。記憶を辿るけどそれらしき人物はいないように思えた。
「あ……、きっと憶えてないよね?」
戸惑っている私の様子に気が付いたように彼は首を少しだけ右に傾けた。
「あっ」
思わず声が漏れてしまう。
私はその仕草をする人物を知っていた。もっとよく思い返せば彼の姿を見た事がある。写真で。
一度目と二度目の人生で会った彼はすごく痩せていて、今目の前にいる男の子と同一人物とは思えず気付くのが遅れた。
「由利花ちゃん、知ってる子?」
私の後ろにいる龍君に尋ねられたが何も言葉を返せない。視線を件の男の子に奪われたまま驚愕に目を見開いて口にした。
「な……っ何でここにいるの、透」
彼はこことは大分離れた小学校に通っている筈だ。でもそれは彼が小学五年生の時から。それまでの彼はどこで暮らし、小学校はどこに通っていたか全然知らなかった。
「やっぱり。前の人生の記憶があるんだね。ボクの事、憶えてるよね? 会いに来てくれたよね?」
男の子にニコッと微笑まれる。
「あの時、怖がって逃げちゃってごめんなさい。信じる事ができなかったボクが間違ってた。あれからお姉さんの事が頭から離れなくてずっと捜してたんだ。間に合ってよかった」
そう言った幼い姿の透は龍君の方をチラッと見て一瞬害虫でも見つけたような目付きをした。再び私に向けられた視線にはその険しさは微塵もなく屈託のない笑顔で告げられた。
「お姉さんが言ってた事、信じるよ。ボクがお姉さんの『夫』だったって事。やっと準備が整ってこっちに引っ越して来たんだ。……お姉さんを迎えに来たよ!」
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