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46 二度目の人生について



 その日の夜は眠りつくまで前の人生の事を考えていた。




 二度目の人生では私の様子がおかしかったのを龍君が察知したようで問い詰められた。

 人生をもう一度生き直しているかもしれないと打ち明けた。それが小学二年生頃だったかな?


 その時の龍君は目玉が落っこちないかと心配になる程目を開いていた。

 後から聞いたら「由利花ちゃんの頭が壊れた」と思っていたらしい。だけど、年月を一緒に重ねていくうちに私の言い分を信じてくれたようだった。




 小五の終わり頃、遊びに来た龍君が傷だらけだった。腕や足、頬にも絆創膏だらけ。

 経緯いきさつを尋ねると彼は言葉を濁した。

 当時の私たちはクラスが違っていて、私も彼の交友関係はよく知らなかった。まさかいじめではと不安に思っていたのが顔に出ていたのだろう。龍君はケンカしたんだとそれだけ教えてくれた。


 三度目の人生ではそういった事はなさそうだった。龍君にとっても二度目の人生だから何らかの方法でケンカを回避したんだと思う。




 小六では今の人生程、志崎君と接点は持てなかった。一度目の人生とほぼ同様に彼を目で追うだけだった。話しかける機会もないまま時は過ぎた。


 それに「私には夫がいる。彼を裏切るなんてありえない」と強く信じていた。


 でもそれはただの言い訳だった。今なら分かる。告白できない弱虫の言い訳。そんな信念なんてなくても、私が告白する事はなかった筈だ。


 保身、怠惰。きっといつまでも『夫』の『妻』という安息の場所にいたかったのだ。

 きつめに言い換えるなら、温かなお風呂からずっと出たくないような。楽でいたいのに似てる。


 私が不倫や浮気をしないのはそういった事をする不誠実な人間を嫌悪していたから。そう思っていた。でも違うのだ。


 一番の理由はそれらと縁遠かったからだ。もし私がしようとしてみても到底できっこないだろう。自分に自信がないしコンプレックスだらけだし、こんな私を好きになってくれるのは夫だけだと。


 でももしも私が美人で性格もよくて自分に自信がある人だったら。そんな私の前に志崎君が現れて、彼も私の事が好きだと言って周囲もそれを祝福してくれたら?

 そう考えたら私はどちらを選んだだろうか。


 今も自分に自信が持てなくてコンプレックスだらけだけど、そんな私もそれでいいと思えるようになった。それは一度目の人生で、透が私を愛してくれていたからかもしれなかった。


 ……もし、透が傍にいたなら。透が私の事を憶えてくれていたなら私は迷わず透を選ぶ。彼が悲しむ事は絶対にしたくない。私もすごく嫌な気持ちになる筈だから。





 でも、二度目の人生で会いに行った時、透は私の事を憶えていなかった。





 不審がられて話もろくにできなかった。逃げ帰って泣いた。


 当時……私は中学三年生だった。










 時を遡って小学校を卒業する少し前。龍君に告白された。

 けれどその時、未来の『夫』を理由に断った。


 龍君は『夫』についてしつこく聞いてきたけど、私は曖昧にはぐらかしていた。だってこの人生でも透が『夫』になってくれる保証はどこにもなかったから。不安は現実になってしまった訳だ。




 中学生になってからも変わらず龍君は友達でいてくれた。


 志崎君とは全然接点がなかった。

 けど、たまにすれ違う時に私一人緊張したりしていた。


 結局、二度目の人生でも見ているだけだった。

 きっと他の多くの人がアイドルや憧れの人物を愛でるのと同じで、私のこの想いもそういった類いだろうと無理に自分を納得させた。




 中学の卒業式。龍君にもう一度告白された。私は頷いて「よろしく」と言った。


 龍君が私を好いてくれているのは中学三年間で痛い程伝わっていた。私も彼を心から愛そうと胸に誓った。


 それでよかったのかもしれない。勇輝という子宝にも恵まれた。


 でもたまに思い出してしまうのだ。透と志崎君の面影を。







 そんな時、事故に遭い命を落とした。息子も守れなかった。







 きっとこれは罰だ。







 私は自分かわいさに傷付く事からずっと逃げていた。


 龍君も透も私に伝えてくれた。傷付くのも覚悟して言ってくれた。


 私は一度も志崎君に告白していなかった。たまたまポロッと好きだった事を呟いて知られてしまった過去はあるけど、それは違うような気がする。



 私は志崎君に告白する。



 伝わるまで何度だって告白する。








 透の事も龍君の事も愛していた。でも、いつまでも志崎君への気持ちが胸に巣くっていた。








 この想いに決着をつけなくてはならない。




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