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41 悲しみの理由


 公園までやって来た。ブランコの手前で後ろを歩く志崎君を振り返る。バンガロー風に造られた公衆トイレを指差して教える。


「志崎君、トイレそこだよ。私ここら辺で待ってるね」


 ブランコに座って待っていようとそちらへ歩き出した私の体はしかし、引っ張られてそれ以上前へ進めなかった。




「笹木さんはオレの事、迷惑?」




 私の右手首を掴む志崎君の力は強く……。彼はずっと下を見ているので私とは視線が合わない。



「迷惑って、どういう意味?」



 私が尋ねると志崎君は顔を上げた。泣きそうなのを堪えるみたいにクシャッとした表情だ。




「オレが笹木さんを好きなの、迷惑? って意味」




 私は言葉を失って志崎君を見つめる。『好き』。……『好き』って言った!

 胸の音が慌ただしくなる。


「何で?」


 何秒か経って、やっとそれだけ口にできた。だけど……。





「オレがいなかったら鈴谷と付き合えるだろって言ってんの!」





 彼は地面に吐き捨てるように声を荒げた。





「四月に……学校前の公園で会った日、絶対に放さないって思った。けど今は傍で見てるのが辛くて」


 志崎君は俯いたまま力なく微笑む。




「もう無理に合わせなくていいから」




 彼は言い終わらないうちに掴んでいた私の手を放してトイレの方へ歩いて行ってしまった。



 残された私はその言葉の意味を理解してしまった。考えを巡らせるより先に涙が零れるので踵を返した。









 公園を出る時に誰かとぶつかった。


「すみません……」


 涙を指で拭い取りながら相手の方も見ずに去ろうとした。



「由利花ちゃん!」



 呼び止められ振り返る。ぶつかった相手は龍君だった。

 私を見た龍君の顔色が険しくなる。




「あいつ、何したの?」




 今まで見た事のない形相で志崎君のいる方向へ行こうとする龍君。その腕を掴んで止める。



「志崎君は何もしてないよ。私が志崎君を傷付けちゃって」



 話し出すと涙が溢れてしまう。泣きたくないのに。思いとは関係なく感情が涙になって落ちてく。


 それは全身が悲しいって叫んでいるような感覚だった。


 目の前に立つ龍君の顔もまともに見れずに下を向いていた。




 突然、頭をわしゃわしゃ撫でられた。大型犬でも撫でているような手付きだ。

 髪が乱れるから止めてよと抗議する事はできなかった。


 やっと見た龍君の顔も泣きそうな表情だった。



「優しいなぁ。つられて泣いちゃうとこ、小さい頃から変わってないね」



 私は涙目でそう笑った。












 私は志崎君に振られたのだ。












 その事実がこんなにも悲しいなんて。


 結局、私は一度目の人生の私と何ら変われていなかった。

 好きな人に「好き」とさえ伝える事ができないどうしようもない愚か者だ。






 振られた後に気付くなんて。

 





 私は彼の事が好きだった。龍君よりも。……夫よりも。





また0時までに間に合いませんでした……。申し訳ありません。

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