39 意図
私は何か龍君に言おうとしたんだけど何も言う事はできずに口を閉じた。
視線を外して、また前を向き俯いた。
何だコレ。心臓がバクバク言ってる。
右手も左手も拘束された気分だ。一ミリも動かせない。
二人に真意を問いたかったがまた雰囲気が悪くなっても困るので、私は沈黙する事を選んだ。
振り解く事も、私にはできない。
もし私が彼らの立場なら、振り解かれたら絶対に傷付くと思ったからだ。
龍君から送られてくる視線が痛い。志崎君も、もしかしたら景色じゃなくて窓に映り込んだこちら側を見ている可能性がある。
……寝たふりをする事に決めた。
「笹木さん着いたよ」
「笹木さん」
龍君と志崎君に起こされて私は慌てて口を擦る。
あああ……。よだれ少し出てた。
本当に寝てしまうなんて。
だって車の揺れ具合とポカポカ暖かい陽射しが眠気を誘ってたんだよ。抗えなかった。
車を降りるとすぐに潮風が強く頬に吹き付ける感覚に「わっ」と目を瞑った。今日羽織っている黄緑色の長袖パーカーがはためく。
今日は防波堤釣りらしい。志崎君は釣りに来るのが初めてのようなので釣り場までまあまあ歩かないといけない磯釣りより車からそんなに歩かなくていいこの釣り場にしたんだと思う。
父の用意した麦わら帽子を各自被らされる。風に飛ばされないよう首元で紐を縛った。
さっそくトランクに積んでいた道具を手分けして持ち、海の方へと移動する。
たまに来た時は一組か二組くらい先客の釣り人がいる事もあったけど今日はまだ誰もいないようだった。
防波堤の先まで行くと、その先は波消しブロック。私たちはその手前の平たいスペースで釣る事になった。
父親らが竿や仕掛けやらを準備してくれている。志崎君が興味津々といった様子でそれを見ている。
私は後方にある壁のような、高い段差のような斜面に背中を預けてそんな志崎君を見ていた。
太陽の熱で温まったコンクリートのざりっとした感じが背中に伝わる。
まだちゃんと話せてないけど、志崎君は私の事をどう思っているのだろう。
さっき握られた左手。もしかして彼がよそよそしいと感じていたのは、私の考え過ぎだったのかな?
「由利花ちゃん、難しい顔して何考えてるの?」
隣に龍君が来た。私と同じように斜面に背中を預けて海側を向いた彼は、ちらっと志崎君の方へ視線を動かした。
私たちの位置から左斜め前二、三メートル離れた場所にいる志崎君たちには龍君の声は聞こえてなさそうだった。海風も強いし。
私は自分のパーカーがはためいているのを押さえた。
右にいる龍君を見る。彼はその時、羽織っていた灰色い上着のチャックを首元まで上げているところだった。
「風強いね」
龍君の言葉に頷きながら考える。
先程、車の中で繋がれた小指の意味はなんだったのだろうか。
真顔で彼を見つめていると龍君は苦笑いした。
「何か聞きたそうだね。……さっきの事でしょ」
彼の目がスッと細まった。
「四月に……由利花ちゃんが将来結婚してくれるって約束してくれた時、驚き過ぎててさ。指切りできなかったなと思って」
龍君はそう言った後、数歩前に出て両腕を上に向け背伸びしている。腕を下ろしながらこちらへ向けられた裏がありそうな笑顔に私は何とも言えない焦りにも似た気持ちを覚えた。
「よそ見なんてさせないから」
そう言い置き、志崎君たちの方へ歩いて行く後ろ姿。
私はただ呆然と見つめていた。
昨日はお休みしてすみませんでした。ありがとうございました!
パソコンも何とかなりました。




