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38 重ねる片鱗


 とはいえ私は嬉しかった。龍君も志崎君も大好きだからだ。


 志崎君と龍君が険悪なのと私と志崎君がすれ違っている気がするのが心配ではあるけど、逆に日曜日に一緒に遊ぶ事で仲直りできるかもしれない。



 前日の夜、私は布団の上で枕を抱えてゴロゴロしていた。父と母は別の部屋で晩酌しているからこっちで独り言を呟いても聞こえないだろう。


「へへへ、楽しみで眠れない」


 大好きな二人の事を思い浮かべると胸がほわっと温かくなる。それは咲月ちゃんや雪絵ちゃん、望君、陽介君、沢野君もそうなんだけどちょっと違って、何というか……ドキドキするのだ。



「普通、一人にそうなるものじゃないの? 私って欲張りじゃない?」



 志崎君の優しい笑顔、こちらを見つめる眼差し、繋いだ手の感触。

 龍君のいつも私を気にかけてくれる態度、大人っぽいかと思ったら子供っぽくて守ってあげたくなるとこ、彼の指が触れたところから走った電気のような衝撃。



 お腹に掛けていたタオルケットを頭まで被って身悶える。



 あれ? 私って精神年齢いい年したおばちゃんなのに、こんなに乙女な事悩んでるの?

 恋愛経験が少ないのが原因か、それとも心も体の年齢に引っ張られてる?



 タオルケットから顔を出す。ため息。天井の木目の染みを眺めながら思い馳せる。




「透は今どうしてるのかな……」




 ずっと心の片隅にいる人物。会いに行けるのは早くて三年後。私、そんなに待てるかなぁ。



 枕を抱えて再び左右にゴロゴロ揺れ出す。

 会って確かめなければ。私が本当に好きなのは誰なのかを。


 この前夢で見た人物の顔は、あえて今は忘れる事にする。まだ深く向き合いたくない。



「早く大人になんてなりたくないのに。でも早く透に会わないと。もうどうにかなってしまいそうだよ」



 右腕で目に入る蛍光灯の光を遮る。


 志崎君や龍君へと向く想いをなるべく見ないようにしてたところがあった。


 でも数日前に彼らが他の女の子と楽しそうに喋ったりするだけでも嫉妬してしまう自分を知った。中々独占欲も強かったのだ。




「はぁ」


 何度目か分からないため息をついた。


















 翌日、父と私は龍君のお父さんの車に乗せてもらい学校前で志崎君と合流した後、海へ向かった。


 運転は龍君のお父さん。助手席にうちのお父さん。後部座席に志崎君、私、龍君と座っている。私が真ん中で、右隣が龍君、左隣が志崎君だ。


 さっき学校前で車に乗り込む時、志崎君と龍君が何やらこそこそ揉めていたので私が真ん中に座ると提案したのだ。二人とも最近、張り合ったり険悪になったりする事が多いように思う。前はまだ仲が良かった気がするんだけど。そういうお年頃なのかもしれない。



 ミラー越しに龍君のお父さんと目が合った。ニコッと笑いかけられた。


 龍君の髪質と似たウェーブのようなくせ毛の黒髪。四角い眼鏡を掛けていて、温和そうな印象のおじさんだ。


「由利花ちゃん、いつも龍と遊んでくれてありがとう。志崎君も龍と仲良くしてくれてありがとう。これからも龍の事よろしく」


「こちらこそ、龍君に仲良くしてもらって学校生活が毎日楽しいです。今日は私たちまで連れて行っていただいてありがとうございます。お世話になります」


 感謝を込めて頭を下げる。左隣の志崎君は何も言わなかったけど、私に合わせてペコッと頭を下げた。


「はははっ。私は今日、龍が友達と言い合っているところを初めて見たよ。いつも澄ました顔してる子だったから同年代の子と年相応にはしゃいでる様子に安心した」


「ちょっ、止めてよ父さん。変な事言わないで!」


 それ以上の言葉を続けさせまいという風に、龍君が慌てたような声を出す。


 仲の良さそうな親子にふふっと微笑む。




 そんな感じで和やかな車内だったんだけど。




 一時間くらい経った頃。車窓は右も左も山。ふあっと少しあくびをした。思っていたよりも早起きしてしまったのでうとうとしそうだ。父と龍君のお父さんは釣りの話で盛り上がっている。



 かくんと首が落ちかけた時、違和感があった。シートについていた左手が温かい。重なっていた手は、上からぎゅっと握られた。


 そろーっと目だけで彼を窺う。志崎君はドアに頬杖をついて左側の窓の外を眺めたままだ。こっちなんて少しも見ていないのに。


 あれ? 彼はこの前の親衛隊の一件で私に失望してると思ってたけど、この手の意味は何だろう?




 思いがけない志崎君の行動に困惑していたのだが、更に余裕がなくなる事態がやって来た。その感覚にビクッと震えた。


 志崎君の手と重なった手とは反対の、シートに置いていた右手。


 右下を確認すると私の小指に龍君の左手の小指が絡まっている。

 恐る恐る瞳を上げる。


 視線を重ねると龍君は意味深に微笑んだ。




急にパソコンが使えなくなって焦りました。


それとは別に、明日は用事があってもしかしたら更新できないかもしれません。申し訳ありません。


追記2024.8.29

「頂いて」を「いただいて」に修正しました。

「私は」を削除、「彼」を「志崎君」に修正しました。

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