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35 真相


 放課後。咲月ちゃんと雪絵ちゃんと私の三人で帰路に就いた。

 雪絵ちゃんはおばあちゃんの家に用事らしい。女子だけで話があるからと龍君には陽介君と先に帰ってもらった。


 歩道橋を渡りながら咲月ちゃんが話し出した。


「私が志崎君を好きっていうの、あれ嘘だから」


「えっ」


 後になってそうじゃないかなとは薄ら思っていたけど、本人の口からハッキリ言ってもらえてホッと安堵する。しかし、まだ気になっている事がある。


「でも手を繋いでいたのを見たとか、すごく辻褄が合ってて……」


 私が言い淀んでいると咲月ちゃんに笑われた。


「不安なのね?」


 一拍、言葉に詰まったけど正直に答えた。


「うん」




「四月のあの日、本当は夢乃に二人の邪魔をするよう言われて公園をマークしてたんだよ。デートの情報は雪絵からしっかり伝わっていたし」


 その話、初耳だ!


 私は雪絵ちゃんの方を振り向く。彼女は目を逸らして吹けもしないのに口笛の真似事をした。


 以前、雪絵ちゃんが書いていた私たちの名前の入った紙の行先もやっと見当がついた。彼女たちが今回の『作戦』を計画する時使ったのかも。


「雪絵は夢乃と幼稚園が一緒で断れなかったんでしょう? 親衛隊に入れられたの」


「腐れ縁よ」


 咲月ちゃんの言葉に被せて雪絵ちゃんが言い切る。咲月ちゃんは「あはは」と笑った後、打ち明けてくれた。


「私も雪絵も夢乃も親衛隊繋がりで付き合い長いんだ」


 そうだったんだ。知らなかった……。


「で。由利花ちゃんと志崎君のデートを邪魔しに行った私だけど、こっそり覗いた二人の様子が仲睦まじすぎて何もできずトボトボ帰ってたの。まさか後ろから由利花ちゃんに声をかけられるなんて思ってなくて本っ当に焦ったよ!」


「そ、そうだったんだ」


 見られていた事が改めてちょっと恥ずかしい。



「私も誤解がないよう言っておくけど、鈴谷君が好きなのはあなたよ。あなたも鈴谷君が好きでしょう? 今日、トイレの前で言ったのはそういう意味だから」


 雪絵ちゃんに言われて考える。えっと……? どういう事だろう?

 私が理解していないのを察してくれたようで雪絵ちゃんが補足してくれる。


「あなたの事を気に入らない理由。二人が相思相愛で目の毒過ぎるって意味」


「え、ええー?」


 言葉が足りな過ぎるよ!


 あの時雪絵ちゃんは龍君が好きなんだと思ってしまったけど、本当はそういう意味で言ってたの?


「ああ。あの時は沙由来に見張られてたからね。あの子、夢乃の信奉者だから私たちの裏切りを警戒してたみたい」


 咲月ちゃんが空を見上げて言った。午前中の雨は止んで、嘘みたいに青い空。




「お詫びになるかは分からないけど教えてあげるわね」


 雪絵ちゃんがニマッと笑う。


「私、鈴谷君に教科書借りてないから」


 ぎく。雪絵ちゃんの言葉に肩が揺れてしまう。


「……気にしてるの、気付いた?」


「もちろん。そうなるようにわざと大きめの声で演技してたもの」


 そうだったのか。そういえば龍君にも協力してもらったって言ってたもんね。



「泣いたあなたを教室に連れて来た時、ものすごく睨まれたわ。鈴谷君は目だけで人が殺せそうよね」


 雪絵ちゃんが耳打ちした内容に足を止める。



 よかった。やっぱり龍君もずっと味方でいてくれたんだ。何だろう、泣きそうだ。



 目を細めて私を見ていた雪絵ちゃんはこう締め括った。



「笹木さんを困らせていいのは私だけ。そうじゃないと詰まらないもの。だからいつも最高のコンディションでいてもらわないとね。困らせた甲斐があるように」



 面白そうに微笑んで駆け出す彼女。


「先に行くから。咲月は笹木さんに話があるんでしょ」


 挨拶もしないまま走って行く雪絵ちゃんを見送った後、首を傾げて咲月ちゃんを見た。


「咲月ちゃん、話って……?」


「あー、えーとね。その……、私の好きな人の話」


 私は目を丸くする。


「あ、志崎君じゃないのは本当だから」


「でも……教科書を一緒に見てた時の咲月ちゃんたち、すごくいい雰囲気だったよ?」


 わざと頬を膨らませて見せる。


「ごめんって! あの時は由利花ちゃんに見せ付ける為にわざとやってたんだよ。志崎君の興味を引こうと由利花ちゃんの小さい頃の写真を焼き増ししてあげるって話を持ちかけてたの。そしてこれから起こる悲劇のお詫びにと思って。無邪気に喜んでる志崎君を見てさすがに良心が痛んだけど」


 そ、そういう事だったのか……。


 過去に色々心配していた自分を思い頭を押さえる。





「それで?」


 改めて私は問い掛けた。それでも咲月ちゃんはまだ言うのをためらっているようだった。


「咲月ちゃんの好きな人って……もしかして」


 私は彼女の傍に寄って内緒話をするようにこそこそ、予想していた人物の名を尋ねる。


「っ、当たり! 何で分かったの?」


 彼女は心底驚いたと言わんばかりの表情だ。今までの仕返しにフフンと笑って見せる。


「そりゃあね。親友ですから!」



追記 2022.10.4

「私は咲月ちゃんと雪絵ちゃん、三人で帰路に就いた。」を「咲月ちゃんと雪絵ちゃんと私の三人で帰路に就いた。」に修正しました。

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