21 輝き
「はい! 私の話はここまで。次は咲月ちゃんが話す番だよ」
「わっ……私?」
仕切り直しとばかりに、私はパンッと手を叩き宣言した。戸惑う様子の咲月ちゃん。
折角の女子会。私の話だけで終わらせる気はない。
ローテーブルの向かいに座る彼女の方へと身を乗り出す。
「咲月ちゃんは? 好きな人……いるの?」
「わ、私は……」
下を向いて視線を外された。いつも強気な咲月ちゃんと違っていて、かわいいなぁと思う。いつもの咲月ちゃんももちろんかわいいけど、何というかギャップにキュンとする。
この間……放課後に雪絵ちゃんや教室に残っていた子たちも交えてお喋りした時は龍君の事が好きなんじゃないかと思ったんだけど、どうやらそうではなさそうなのだ。
「私にだけ話をさせて、咲月ちゃんは教えてくれないっていうのはナシだからね? いるかいないかだけでも知りたいなぁ?」
いつも咲月ちゃんの恋バナへの情熱にタジタジになるけど、たまには反撃したっていいよね?
にやける口元を手で隠して、彼女の返答を待った。
咲月ちゃんは俯いたまま沈黙している。
「咲月ちゃん?」
彼女の異変に気付いて声をかけた、その時。
俯いていた彼女の瞳から、大粒の涙が零れた。
「咲月ちゃん!」
あ、あ、あ、あ……。泣かせてしまった! どうしよう! そんなつもりじゃなかったのに!
内心大慌てで周囲を見渡し手近にあった箱ティッシュを掴んでそこから中身を何枚か取り出し、彼女に手渡した。
「ごめん、ごめんね! 追い詰めたかった訳じゃないの。言いたくないのに言わせようとしてごめん!」
嗚咽しながら赤くなった目で私を見た彼女は、手に持ったティッシュで涙を拭い鼻をかんだ。
「いっ……いいの、別に……由利花ちゃんは、何も、悪くないから……っ」
途切れ途切れにでも、一生懸命伝えようとしてくれる。
彼女の隣へ移動して、その肩をぎゅっと抱きしめた。
咲月ちゃんは抑えていたものを手放すように声を上げて泣き出した。そんな彼女の頭を撫でる。
悲しみが伝染して私も泣いてしまった。
きっと彼女も誰か好きな人がいるのだろう。けどそれは私にも話せない難しい恋なのだと、薄々感じ取った。
やがて彼女は落ち着いた。それまで私たちはずっと泣き続けていたので瞼がパンパンに腫れてしまっていた。
彼女の泣いたところを見た事がなかったし、彼女も私の泣いたところを見たのは初めてだろう。
なので、お互いに気まずい顔をしていたんだと思う。
「ただいまー」
あっ! お母さん帰って来ちゃった。
玄関からの母の声に、もうそんな時間かと時計を見る。窓の外も暗くなりかけている。
「私、もう帰るね」
咲月ちゃんが立ち上がった。先程よりは幾分明るさの戻った声に、少しだけホッとする。
うちの母に「お邪魔しました」と挨拶して、早足で玄関に向かう彼女。その後を追い、声をかける。
「途中まで一緒に行くよ!」
まだちょっと心配だ。
咲月ちゃんの家と私の家は割と近い。龍君の家程ではないけど。
道すがら、隣を歩く彼女の顔を盗み見る。
泣き過ぎて鼻も赤くなってる。
「……いつか」
彼女は呟く。
「いつか打ち明けるから、私の好きな人。…………だからその時は、話を聞いてね」
まっすぐ私を見て微笑んだ彼女の目には涙が残っていて……それは見上げた濃い青色の空に光る、星みたいに綺麗だと思った。
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