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20 本当の気持ち



「ダメだよ、由利花ちゃん!」


 放課後、早々と遊びに来てくれた咲月ちゃん。開口一番、私にダメ出ししてきた。



 オレンジジュースを出すと彼女はそれを一気飲みしてコップを私に返した。


「全然分かってなさそうだったから言っておくけど、志崎君と付き合ってるのに鈴谷の家にひょこひょこ遊びに行くのは志崎君があんまりにもかわいそうだよ! すぐ断らなきゃ」


「あ……そういう事だったんだ」



 何という事だろう。中身はアラフォー(二度目の人生を足したらアラフィフ)なのに、小六に恋愛のマナーみたいなものを説かれる事になろうとは。



 一度目の人生ではモテた事もないし龍君とケンカ別れして以降、男友達もいなかったのでそのようなシチュエーションとは縁がなく考えた事もなかった。


 しかも所詮は小学生の恋愛だと侮っていた。



 でも、そうだよね。普通そんな感じだよね、付き合うって。

 わぁ……青春だなぁ。








「で?」


 咲月ちゃんの声に責めるような圧を感じ取る。

 獲物を前にした狩人のような鋭い目をして、容赦なく距離を詰め迫ってくる彼女。



「本題に入るよ! 何で他に好きな人がいるのに志崎君と付き合うの?」



 ああああ。まだどう説明するか考えてなかったよ。

 さすが咲月ちゃん。痛いところへストレートに言葉を叩き込んでくる。





「待って。説明する前に考えをまとめるから、ちょっと待ってて……!」


 そう咲月ちゃんに断って、自分の内なる声に耳を傾ける。

 私自身も自らの心の動きがよく分かっていなかったので、考えを整理するよい機会だと思う。



 私は……未来にちゃんと夫がいるのに、何で志崎君と付き合う事に決めたんだろう。












 ……不安だった。夫に会えたとして、私は彼に受け入れてもらえるのか。



 拒絶されたら、そこで終わりだ。お母さんになるどころか結婚もできなくなる。



 志崎君は勇気を出して私の本心を聞きに来てくれた。私が他にも好きな人がいるって告げたのに「いいよ」とまで言った彼。



 自分の状況を、その時の彼と重ねてしまった。






 一度は志崎君が差し出してくれた想いを受け取るのをためらい、自分の中からその存在を閉め出そうとさえした。


 気持ち的に親子程も年が離れているし、今の人生ではまだ結婚していないからって夫じゃない人と付き合うなんて間違ってる……悪い事だってずっと思っていた。


 でも立場とかルールとか善悪とかそんなのは全然関係なくて……志崎君が向けてくれた想いが私の軽い決断で否定されたり、その価値がどれ程のものか気付かれる事なくぞんざいに扱われてしまったならとても悲しい。それを知ってしまった時、私は絶対に後悔する。




 一度目の人生では、彼に告白できなかった。十年以上好きだったけど、何一つ行動できなかった。振られるのが怖くて。


 だけど志崎君は、私に心を見せてくれた。



 彼の想いの真価を、私があっさり決めていい筈がない。












 色々考えたけど本当のところは、ただ私が泣きたいくらい嬉しかっただけかもしれない。




















「一言で言えば、様子見ね」


「え? 随分と真剣に考えてるなーと思ってたら何? どういう事?」



 咲月ちゃんに尋ねられるのも尤もだ。色々端折り過ぎて説明不足なのは分かっている。



「私は志崎君を悲しませたくない。片想いをした事があるから思う。その想いが報われるのなら、それはすごく貴く得難いものなんだって。これからの事……まだ迷ってるけど、答えが出るまで彼と付き合ってみる。そしてどうするか見極める」



「……そう呑気に、うまく事が運ぶとは思えないけどね」



 咲月ちゃんは何故か呆れ顔で、そうため息を零した。



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