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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1,000文字以下の短編

[短編]雪だるまの家族で初日の出と祖父を迎える

 ゆるゆると白い世界から車を走らせる。


『大晦日は出掛ける。元旦の夜までには帰る』


 餅つきも終わった30日に言った時、誰も何も言わなかった。


 ドライアイスを詰め込んだクーラーボックスを抱えて車に乗ると、父が日本酒を1本渡してきた。

「お前は飲むなよ」

「わかってる」

 後部座席に静かに置いた。


 雪道をただ黙々と進む。

 途中、何度もコンビニ休憩を挟む。

 市街地を抜けてうねうねと一般道を走る。

 こちらは雪が少ない。

 日が暮れるより早く山に囲まれて暗くなる。

 走り抜ける道路には、以前よりもぽつぽつと灯りがついていた。


 見慣れた地域に入る。

 道の土地勘はあるが、見慣れない土地のようになっていた。


 ラジオをつけると年末の歌番組。

 祖父母が好きだった演歌歌手の歌が流れた。

 不意に涙腺が緩む。

 泣きながら、車を運転して()に着いた。


 家の灯りも何もない空き地。

 俺は車をそろそろと駐車して、降りる。

 誰もいないのにできるだけ静かにドアを閉めた。


 運転に疲れた腰を伸ばすと、満天の星空。

 住んでいた時には見えなかった小さな星まで、見えている。

「…真っ暗だもんな」

 独り言は、白い空気になって消えていった。


 誰もいない。


 俺は寒さに耐えられなくなるまで、ずっと土の上に立って空を見ていた。






 大きな地震があって、爆発があって、バスに乗せられて、辿り着いた先は真っ白な雪の国。

 荷物も少なくて、帰る日も分からない。

 年老いた祖父母にくっついて座っていた。

 卒業式をしたばかりで、お祝いに何が欲しいか話をしていたのは夢だったのか。


 今年、家の解体をした。

 地震で壊れたままの家は、10年経って住めない状態だった。

 祖父母は家に帰れなかった。


 寝袋に入って、車の中で眠る。

 明け方近くに寒さで目が覚めた。


 暁闇の中、寝袋から出てクーラーボックスを外に出す。


 霜の降りた土の上に置くと、蓋を開けて中の雪だるまを取り出した。

 祖父母、父と母、俺と弟。連れて行けなかった愛犬のシロ。

 7つの雪だるまを玄関のあった場所に並べる。


 なんの意味もないかもしれないけど。


 「じいちゃん、こっちの家に帰っても寂しくないよな」


 祖父の墓は雪のある家の方に建てた。


 記憶の家はここ。


 説明のできない涙をぼろぼろと溢しながら、しゃがみこんで声を上げて泣いていると背中が暖かかった。

 顔を上げて振り返ると、初日の出が昇って俺を照らしていた。


 元旦は祖父の命日。


 一番大きな雪だるまの横に日本酒を注ぐ。

 嬉しそうに酒を飲む祖父の顔が一瞬見えた。








なくなっても、残っている。


だから、消えていない。






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i605003
― 新着の感想 ―
[良い点] まるで、本当に経験されているかのような光景が浮かびました。 被災も、 涙が流れても、必死に運転する姿も。 [一言] 雪だるまを並べるシーンが、 最初は、河原で石を積むような印象を受けまし…
[一言] 311があって、そこだけで完結した災害でも悲劇でもなく、続いていく日々があるということ。 被災地、被災者だけの隔離された別世界ではないはずなのに、時とともに記憶も衝撃も薄れていく自分に、改…
[一言] 雪だるま 読み進めていくうちにわかるその意味 じんわりと染み渡るお話でした
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