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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

1,000文字以下の短編

[短編]雪だるまの家族で初日の出と祖父を迎える

掲載日:2021/12/31

 ゆるゆると白い世界から車を走らせる。


『大晦日は出掛ける。元旦の夜までには帰る』


 餅つきも終わった30日に言った時、誰も何も言わなかった。


 ドライアイスを詰め込んだクーラーボックスを抱えて車に乗ると、父が日本酒を1本渡してきた。

「お前は飲むなよ」

「わかってる」

 後部座席に静かに置いた。


 雪道をただ黙々と進む。

 途中、何度もコンビニ休憩を挟む。

 市街地を抜けてうねうねと一般道を走る。

 こちらは雪が少ない。

 日が暮れるより早く山に囲まれて暗くなる。

 走り抜ける道路には、以前よりもぽつぽつと灯りがついていた。


 見慣れた地域に入る。

 道の土地勘はあるが、見慣れない土地のようになっていた。


 ラジオをつけると年末の歌番組。

 祖父母が好きだった演歌歌手の歌が流れた。

 不意に涙腺が緩む。

 泣きながら、車を運転して()に着いた。


 家の灯りも何もない空き地。

 俺は車をそろそろと駐車して、降りる。

 誰もいないのにできるだけ静かにドアを閉めた。


 運転に疲れた腰を伸ばすと、満天の星空。

 住んでいた時には見えなかった小さな星まで、見えている。

「…真っ暗だもんな」

 独り言は、白い空気になって消えていった。


 誰もいない。


 俺は寒さに耐えられなくなるまで、ずっと土の上に立って空を見ていた。






 大きな地震があって、爆発があって、バスに乗せられて、辿り着いた先は真っ白な雪の国。

 荷物も少なくて、帰る日も分からない。

 年老いた祖父母にくっついて座っていた。

 卒業式をしたばかりで、お祝いに何が欲しいか話をしていたのは夢だったのか。


 今年、家の解体をした。

 地震で壊れたままの家は、10年経って住めない状態だった。

 祖父母は家に帰れなかった。


 寝袋に入って、車の中で眠る。

 明け方近くに寒さで目が覚めた。


 暁闇の中、寝袋から出てクーラーボックスを外に出す。


 霜の降りた土の上に置くと、蓋を開けて中の雪だるまを取り出した。

 祖父母、父と母、俺と弟。連れて行けなかった愛犬のシロ。

 7つの雪だるまを玄関のあった場所に並べる。


 なんの意味もないかもしれないけど。


 「じいちゃん、こっちの家に帰っても寂しくないよな」


 祖父の墓は雪のある家の方に建てた。


 記憶の家はここ。


 説明のできない涙をぼろぼろと溢しながら、しゃがみこんで声を上げて泣いていると背中が暖かかった。

 顔を上げて振り返ると、初日の出が昇って俺を照らしていた。


 元旦は祖父の命日。


 一番大きな雪だるまの横に日本酒を注ぐ。

 嬉しそうに酒を飲む祖父の顔が一瞬見えた。








なくなっても、残っている。


だから、消えていない。






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i605003
― 新着の感想 ―
[良い点] まるで、本当に経験されているかのような光景が浮かびました。 被災も、 涙が流れても、必死に運転する姿も。 [一言] 雪だるまを並べるシーンが、 最初は、河原で石を積むような印象を受けまし…
[一言] 311があって、そこだけで完結した災害でも悲劇でもなく、続いていく日々があるということ。 被災地、被災者だけの隔離された別世界ではないはずなのに、時とともに記憶も衝撃も薄れていく自分に、改…
[一言] 雪だるま 読み進めていくうちにわかるその意味 じんわりと染み渡るお話でした
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