表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

アイスファイア


「ギャギャギャ!」


 ゴブリンメイジが木の杖を掲げ、ゴブリンやホブゴブリンたちが一斉に動き出す。

 戦うと決めたからには一歩も引けない。


「とにもかくにも数が多すぎる。デカいのかますぞ」

「えぇ、デメリットは承知の上です」


 火炎と冷気を両手に宿し、この空間を二つで満たす。

 走るように駆けた灼熱が白亜を焦がし、這うように満たされた霧が霜を張る。

 触れたモノを焼き尽くし、凍て付かせた。

 それに伴うデメリットも膨大で、一瞬視界が眩むほどの熱を帯びる。


「透華っ」

「はいっ」


 手を取り合い、デメリットを相殺する。

 冷たい感覚が這い上がり、体温が平熱へと近づいていく。


「ギャギャギャ!」


 火炎と冷気の副産物で視界が白く霞がかる中、その向こう側からゴブリンの声がする。

 それとほど同時に大量のゴブリンやホブゴブリンが霞を突き破ってきた。


「生き残りが、こんなに」

「どうやって防ぎやがった!?」


 さっきの威力なら八割くらい数を減らせていたはずなのに。

 霞から突き出てくるゴブリンの数は明らかに多い。

 デメリットは、まだ相殺しきれていない。

 すぐにでも透華を抱き締めてデメリットを相殺し切りたいが、そう言う訳にもいかない。

 抱き締めれば一瞬だけとはいえ隙を晒すし、透華の意思を無視することになる。

 今後のことを考えている場合でもないだろうが、とにかく折衷案を出さないと。

 押し寄せるゴブリンたちを目の前にして、思考は巡る。


「――背中合わせだ」


 透華と目が合う。


「それならいいだろ?」

「――えぇ」


 返事と共に背を向け合い、背中が重なる。

 戦闘服を介して接触面積が増えたことにより相殺は加速した。

 そのまま片手を群れに向け、灯した火炎を吐き出した。

 追従するように冷気も放たれ、ゴブリンの群れを呑む。

 先ほどよりも小規模な攻撃。

 にも関わらず、ゴブリンたちは簡単に命を散らしていく。

 先ほどよりも成果が出ている。

 そのことを疑問に思いつつ、デメリットの相殺が終わった。

 背を離して向かってくるゴブリンたちを迎撃。

 脇腹を蹴り飛ばし、飛び跳ねたゴブリンを撃墜し、ホブゴブリンに火炎を見舞う。


「篝くん!」


 灰が散る中、名前を呼ばれて後退。

 透華の側によって背中を重ねた。


「妙だな。ちゃんと倒せる」

「えぇ、それに奇妙な点がもう一つ」


 向けられた視線の先を目で追い掛けると、そこにはゴブリンメイジがいた。

 数体のホブゴブリンに守られた奴こそ、この群れの長だろう。

 だが、なぜだ? 怪我を負っている。血が流れているところを見るに、火傷や凍傷じゃないし、俺たちはゴブリンメイジに近づけてもいない。

 だと、すれば。


「デメリットか」

「私もそう思います。恐らくは自傷か自壊の類いでしょう」

「デメリットに悩まされてるのは魔物も同じだな」


 ゴブリンメイジの魔法によって、初撃を防がれたとみるべきか。


「なら、我慢比べと行こうぜ」


 周囲のゴブリンを焼き払い、手の平をゴブリンメイジへと向ける。

 そうすると意図を察してくれたのか、同じようにしてくれた。


「デメリットを相殺出来る分、私たちのほうが有利、ということですね」

「あぁ、どれだけ防がれようが魔法を止めるなよ」


 火炎と冷気が三度、この空間に満ちる。

 火炎が焦がし、冷気が凍て付かせ、何体ものゴブリンを呑む。

 目指す先はゴブリンメイジ。相手もそれをわかっているから、行動は速かった。


「ギャギャギャ!」


 空間を仕切り、あちらとこちらを分かつように、光の壁が現れる。

 火炎と冷気はそれに真正面からぶつかり受け止められた。

 これがゴブリンメイジの魔法。

 だが、こちらの火力が上回り、光の壁に亀裂が走る。


「ギャギャ!」


 光の壁の向こう側。ゴブリンメイジは体の一部を破裂させたように血飛沫を拭きながら、ホブゴブリンに支えられている。

 再び、血飛沫が上がり、光の壁に走った亀裂が修復された。

 光の壁を現出し、修復するたびにデメリットが生じている。

 つまり、このまま押せばゴブリンメイジは自滅するはず。


「けど……」


 背中合わせでは足りないのか、デメリットの相殺が追い付かない。

 すこしずつ体温が上がり、背中に感じる冷たさが増していく。

 こちらが有利とは行った者の、相手も根性がある。

 何度も血飛沫を上げながらも、それでも膝はつかない。


「透華っ、手をッ」

「はいっ」


 空いた手を伸ばすと、冷たい手が手の平に這う。

 指を絡ませ、接触面積を増やし、更に威力を引き上げる。

 とうとう光の壁の亀裂は修復が追い付かなくなり、ゴブリンメイジも膝をつく。

 瞬間、光の壁が消失し火炎と冷気の嵐が、ゴブリンの群れを攫っていった。

 後に残ったのは大量の死体のみ。

 それらもすぐに結晶化し、いくつもの魔石となって地面に転がった。


「だぁー! 終わった-!」


 魔物の殲滅を確認して、大きく吐いた息に安堵が混じる。

 デメリットの相殺具合も良好。熱中症に似た後遺症も出てない。

 透華のほうも低体温症のような症状は見られなかった。


「私たちが……本当に、これを……」

「あぁ、そうだ。俺たちの手柄で間違いない。これなら昇格も決定的だ。Dランクだぜ、Dランク」

「Dランクに……嘘みたい」


 頬に手をやる透華の頬は緩みきっていた。

 かくいう俺もそう。

 雌伏の時を超えて、ようやく最下層から脱出できるんだ。

 頬が緩まなきゃ嘘だ。


「透華」


 名前を呼んで片手を上げる。

 それを見て透華は一瞬きょとんとしたが、すぐに同じように片手を上げた。


「俺たちの勝ちだ」

「えぇ、勝ちです」


 ハイタッチを交わし、乾いた音が空間に木霊した。

よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ