最奥
ダンジョンで魔物が死亡すると、その死体は結晶と化す。
圧縮されて幾つかの塊になったものを魔石と呼び、あらゆることに利用される。
周囲に散らばったそれを回収する魔道具もあり、そのうちの一つが収集用ゴーレムのタベルくん。
腰の雑嚢鞄から後ろ手にタベルくんを取り出して投げる。
地面を跳ねたそれは器用にバランスを取って着地し、膨張して二回りほど大きくなった。
「ぐごごごご」
鳴き声のような、駆動音のような、とにかく音を発して、タベルくんは魔石を頬張るように体内に格納する。一つ食べ終えれば次の魔石へ。
「ちゃんと起動してるな。行こう」
「えぇ、追い打ちをかけましょう」
その場をタベルくんに任せて逃げたゴブリンたちを追う。
行き先は砂に残る足跡が教えてくれ、それを辿るとすぐに背中が見えた。
それからは先と同じ要領で殲滅を繰り返し、たまに出てくるホブゴブリンを魔法で蹴散らしていく。
「でも、相殺できるとはいえ、使い過ぎは禁物だな。やっぱ」
「そうですね。お互いのデメリットが大きいほど、相殺するのにも時間がかかりますから」
手を繋ぎ、周囲を警戒しつつ、言葉を交わす。
周囲にはホブゴブリンの死体が八つに、焦げ跡と氷柱。
討伐するのにすこし長く魔法を使った。
そのデメリットの相殺に、すこし時を要している。
「これでもかなり速いほうですが」
「接触面積を増やせばもっと速くなるぜ。ハグとか」
「殿方と抱擁など、よほどのことがない限りいたしません」
「お堅いなぁ」
「貴方が軽薄過ぎるのでは?」
「否定は出来ないかな」
軽く笑って手と手を離す。
デメリットは相殺できた。続けて遺跡の奥に向かおう。
「しかし、こんなに長く戦えるようになるとはな」
タベルくんに魔石の回収を任せて歩き出す。
「以前ならば、すでに医療テントでベッドに横たわっていたことでしょう。お互いの動きもわかってきたことですし、いい調子ですね」
「よほど相性がいいらしいな、俺たち」
「魔法の、もっと言えばデメリットの相性は、いいですね」
「おやおや」
先ほどから思っていたけど、随分とガードが堅い。
これまで出会った中で一番と言っていいほどだ。
街で声を掛けたら見向きもされずに去って行くタイプだ。
良い感じの仲になれれば、デメリット相殺ももっとスムーズに行くんだけど。
まぁ、急ぎすぎて駄目になったら流石に洒落にならない。
相手に合わせてゆっくりじっくり関係を深めていくことにするか。
最終的にどんな関係になるとしても。
「おっと、ここ最奥か?」
「移動ルートから考えると、そのようですね」
地図が閉じられ、雑嚢鞄に仕舞われた。
遺跡の最奥は広々とした空間になっていて、中央に大きな燭台が配置されている。
現在は大半が暗闇で締められていて視界が聞かない。
「とっとと燭台に火をつけないとな。魔法でぼわっとやっちまおうか」
「不用意に魔法を使えば窮地を招きます。面倒臭がらずに歩いていきましょう」
「それもそうだな。じゃあ、早歩きで」
その一歩目を踏みだして、暗闇が払われる。
独りでに火が灯る燭台。
いや、炎光に照らし出されて、燭台に火を付けた者が露わになる。
すり切れたローブを纏い、木製の杖を掲げたゴブリンメイジ。
その後ろには数え切れないほど多くのゴブリンやホブゴブリンたちがいた。
「デカい遺跡だとは思っていたけど」
「まさかここまでとは」
思わず一歩下がりそうになった。
だが、それをぐっと堪えてゴブリンたちに立ち向かう。
それは透華も同じようで目と目が合った。
逃走か闘争か。
結論は出た。
ゴブリンなんかから逃げ出したら冒険者は名乗れない。
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