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ダンジョン


 仲間たちが順次、遺跡の中に足を踏み入れ、俺たちも後に続く。

 遺跡の内部は尽きることのない蝋燭の明かりで照らされ、灯火の揺らぎに応じて影が揺れるような、少々不気味な雰囲気が漂っている。そのせいなのか空気がじめっとしていて、足下は石材が削れたからなのか砂でざらついていた。


「雰囲気あるな。遺跡ってこんなだっけ?」

「内部に入るのは久しぶりなので少し新鮮です」

「って、ことはだ。透華もあれか。遺跡の入り口で」

「はい。魔法を放ってお終いです」

「道理で面識がなかったわけだ」


 俺たちの役目は、どちらか一人がいれば事足りる。

 二人が揃うことはまずない。

 今回みたいに大規模な遺跡だと、それはそれで広すぎて、二人がかりでも殲滅し切れない。


「では、お互いに実戦は久しぶりなのでは?」

「そうなるな。トレーニングルームで嫌ってほど訓練はしたけど」


 魔法で作り出された擬似的な敵を相手に行う訓練。

 実戦に限りなく近い状況で戦えるが、やはり本番は違う。

 致命傷を避けてはくれないし、教官の判断で戦闘が中断されることもない。

 どっちかが死ぬか、逃げ果せるまで、戦いは続く。


「確認なのですが、貴方の戦闘スタイルは――」


 足を止める。

 見据えた先には仄暗い闇に染まった通路。

 そこから這い出てくるように現れたそれが、灯火の光を受けて輪郭を浮かばせる。

 くすんだ緑色の肌。粗雑な武器と防具。鋭い牙と爪。

 人型のそいつの名前は、ゴブリン。

 次々と灯火に照らし出されて数が増えていく。


「お出ましだ」


 腰の刀を抜いて構えを取る。

 それと時を同じくして、透華も刀を抜いた。


「戦闘スタイルだっけ? たぶん、同じだよ。剣が主体で、魔法は最終手段」

「やはりそうなりますか」

「デメリットがデカけりゃ、自然とこうなる」


 こちらが得物を構えたことで、ゴブリンたちが殺気立つ。

 唾液を散らすほど怒鳴り散らし、高々と粗雑な得物を掲げて威嚇する。

 それにもこちらが怯まないと見るや、一斉に襲いかかってきた。


「とりあえず、互いに好き勝手動こう。連携はそのあと」

「えぇ、貴方の動きを見させていただきます」


 必要な言葉を交わして、こちらからも討って出る。

 数秒と掛からず間合いに踏みこみ、最前線のゴブリンを斬り伏せて次の目標へ。

 足は止めず、そのまま群れに突っ込み、刀を振るうたびに頭や腕や指が飛ぶ。

 血飛沫が舞い、地面の白亜が赤く染まる中、透華の剣閃がゴブリンの胸を貫く。

 素早く手前に引かれ、側のゴブリンを払うように斬ると、翻って腕を断つ。

 一連の動作は舞いを彷彿とさせる華やかさがあり、それを台無しにする飛び散った鮮血と死体が酷く邪魔に思えた。


「流石に楽勝だな」


 ゴブリンは比較的弱い部類の魔物にあたる。

 知能が低く、力も弱い。

 群れで行動しても好き勝手に動くので連携が取れない。

 久々の実戦だとしても後れを取るような相手ではなかった。


「――と、思ったら、だ」


 最初に見えていたゴブリンたちを大体斬り終えると、また暗がりからゴブリンが出てくる。

 その体格はほかのゴブリンよりも一回りも二回りも大きく、でっぷりと太っている。

 のっそのっそと歩く姿が緩慢だが、握り締められた得物が巨大な棍棒なこともあって、その怪力を警戒せずにはいられない。

 ゴブリンの近縁種、ホブゴブリンだ。二体いる。


「この群れの長のようですね。討ち取れば士気が下がります」

「派手に討てば効果倍増だ」


 透華と顔を見あわせて、手の平に火炎と冷気を灯す。

 二体のホブゴブリンは棍棒の先で地面や壁を擦りながら地面を蹴った。


白く染めて(スノーホワイト)

火をつけて(レッドゾーン)


 仲間の死体を踏み潰し、濁音だらけの咆哮が轟く。

 掲げた棍棒が天井を掠め、振り下ろされた、その刹那。

 手の平から伸びた火炎が肉も骨も棍棒も跡形もなく焼却し、吹き抜けた冷気が吐いた息すらも凍らせて一つの氷像を作り上げる。

 上半身を失ったホブゴブリンの死体が膝をついて倒れ伏す。


「あっつ」


 熱の衣を纏うような体温上昇が伴い、汗が噴き出す。

 冷気を放った透華も身を震わせ、冷気のような白い息を吐く。


「ギャギャギャ!?」


 群れの長を討たれたゴブリンたちは、我先にと遺跡の奥へと逃げて行く。

 今回の遠征目的は魔物の殲滅だ。

 その背中を追い掛けて追い打ちを掛けるその前に、透華と顔を見あわせる。


「いいか?」

「えぇ」


 手を取り、握手を交わす。

 心地の良い冷たさが手を介して流れ込み、デメリットが相殺される。

 熱の衣は剥がれ、掻いた汗は引いた。

 今までならこれで帰還が視野に入っていたが、お陰でまだまだ続けられる。

 一息をつくと周囲の死体に変化が起こり、結晶化が始まった。

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